考えられる原因の1つは、近年では記録的な高水準に達しているM&A活動だ。OECDは継続中の調査の中で、M&A活動の急増が産業集中度の高まりを招いているのかを調べている。暫定的な調査結果からは、一部のM&A、特に大規模なものは、実際に産業集中度の高まりと相関関係にあることが示唆されている。

 2つ目に原因となりうるのは、「スーパースター企業」――つまり革新性、生産性、収益性において他社をしのぐ、小数の企業の台頭である。

 マークアップ率の上昇に対する解釈として、企業が価格を高く設定しすぎており、イノベーションのインセンティブが低下しているという見方がある。一方、「スーパースター仮説(superstar hypothesis)」においては、一部の企業が高い市場シェアとマージンを享受できるのは、自社の製品・サービスが競合他社よりも安い、もしくは優れているからにほかならない、とされる。

 この見解はデータで裏づけられており、他の研究論文とも一致する形で、筆者らは次の調査結果を得た。集中度が高い産業における大企業は、集中度が横ばいまたは低下している産業の大企業に比べて、生産性の伸びは鈍いどころか、より急速であった。

 スーパースター企業は、無形資産に大きく投資していることが多い。広告、人材育成、マネジメント、研究開発、データなどだ。こうした投資は巨額の埋没コストになることもしばしばあり、それを許容できる金銭的余裕があるのは大企業だけである。そして、経営に優れた企業のみが、無形資産への投資から十分なリターンを得ることができると考えられる。

 したがって、勝敗を分ける要因として無形資産の重要性が高まっているという事実は、大規模で生産性が高い企業をますます有利にしている。実際に筆者らの調査結果を見ると、無形資産の多い産業にいる企業は、マークアップ率が高い傾向がある(マークアップ率を左右するその他の企業要因と産業要因の影響は考慮したうえで分析)。

 マークアップ率と産業集中度の上昇をもたらしうる3つ目の原因として、デジタル技術が挙げられる。これは、誰もが重要だと知りながら触れたがらないのだが、影響を明確に突きとめるのが難しいという事情がある。

 デジタル技術は勝者と敗者を生み、スター企業の規模拡大とスーパースターへの躍進を可能にする。だが、デジタル技術を評価しようと努める研究者には、難題も突きつけられる。産業に関する従来の定義は、デジタル企業を評価するには十分ではない場合が多い。ウーバーは、テクノロジー企業なのか、それとも運送業を営む企業なのか。

 デジタル産業ではなく、デジタル企業について論じるほうが理に適っているのかもしれない。だが、複雑で、広範囲に、急速に発展しているデジタル技術について、複数の国々と産業にわたって測定・評価するのは困難だ。ネットワーク効果、データの流れ、売上げゼロの企業の市場シェアなどを、正しく把握するにはどうすればよいのだろうか。

 したがって、筆者らが立証した諸傾向において、デジタル技術の影響を、完全に一貫した形で見出せないのは当然なのかもしれない。デジタル度が高い産業にいる企業は、マークアップ率が高い場合が多く、そうでない企業との差は時とともに広がっていた。一方、産業集中度に関しては、デジタル度が高い産業では集中度も顕著に高いという傾向は見られなかった。今後、さらなる調査が必要だ。

 M&A、無形資産、デジタル化という要因に加え、グローバル化や、競争を阻害する規制などが相対的にどれほど重要なのか、いまだに結論は出ていない。とはいえ、企業にとっての示唆は明白である。経済はスーパースター企業の独壇場であり、「平均的企業」でいられる余地はますます狭まっているのだ。


HBR.org原文:Superstar Firms Are Running Away with the Global Economy, November 14, 2019.

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サラ・カリガリス(Sara Calligaris)
経済協力開発機構(OECD)のエコノミスト。関心分野は、テクノロジーの変化が企業業績に及ぼす影響。生産性とマークアップを特に注視している。

キアラ・クリスクオロ(Chiara Criscuolo)
経済協力開発機構(OECD)パリ本部のシニアエコノミスト。

ルカ・マルコリン(Luca Marcolin)
経済協力開発機構(OECD)のエコノミスト。専門分野は、企業レベルの潜在力の分析。

ジョナサン・ティミス(Jonathan Timmis)
世界銀行グループ傘下、国際金融公社(IFC)のエコノミスト。研究対象は、デジタル化が企業とグローバル化に及ぼす影響。