ビジネスの成功確率を高めるには

 本誌だけでなく、最近、多くのビジネス誌や書籍で、「5Gサービスの開始によって新たなビジネスチャンスはどこに生まれるか」「イノベーションはどんな分野で起こるか」などをテーマとして取り上げています。

 しかし、予測は難しい。今号の特集1番目の論文で書かれているように、3G導入時にはテレビ電話がもてはやされていましたが、実際には「iモード」に代表される携帯端末でのネット接続のインパクトが大きかったし、4G開始後のシェアリングサービス台頭のように、予想外のビジネスが誕生し、社会に受け入れられるものです。

 しばしば指摘されますが、テクノロジーの革新はきっかけであって、イノベーションは新結合、つまり複数のアイデアの結びつきから生まれる面が強いものです。アイデアの新結合は、個人の頭の中での場合もあれば、人の交流で生まれる場合もあります。

 特集3番目の論文の筆者である福田康隆氏は、著書『THE MODELザ・モデル』(翔泳社)で、経済環境が激変する中でセールスフォース・ドットコム創設者のマーク・ベニオフ氏や日本オラクル元会長の佐野力氏らの優れた経営者からビジネスを学んだことを明かしていますが、同時に、多くの経営書からも示唆を得ていることを記しています。

 同書「はじめに」には、福田氏の指針として「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(オットー・ビスマルクの格言)が示されています。優れた経営者から直接指導を受けるのは一般には容易でありませんが、追体験は読書を通して誰もが可能です。特に、ビジネスでの成功確率を高めるには、一級の経営書や経営学書を読むことでしょう。

 そのニーズに真正面から応える書籍が、12月12日発売の『世界標準の経営理論』(入山章栄著、ダイヤモンド社)です。本誌での2014~2018年の連載を大幅に加筆修正した大部です。

 既存の経営書や経営学書と大きく異なるのは、経営学が依って立つ、経営学の基盤を支える経済学、心理学、社会学の理論ディシプリンを論じていることです。詳細は同書をご参照頂きたいのですが、それらが科学であるところに他書との根本的な違いがあります。

 反証が可能で、理論として認知されるまでに多くの実証研究により検証されています。論理が通っていて、説得力があるのです。同書ではそうした約30の理論を1章~32章で解説した後、組織行動や人事などのビジネス現象を事例的に分析してみせ、理論の使い方を示します。

 そして、ビジネスパーソンが経営理論を、意思決定を行う際の「思考の軸」とすることを薦めています。冒頭に触れた特集関連で言えば、イノベーションという現象は、心理学や社会学の理論から、いろいろと分析されています。

 心理学では、話題の書『両利きの経営』(チャールズ・オライリーら著、東洋経済新報社)で注目される「知の探索と知の深化の理論」や、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏のSECIモデルなどから分析しています。後者では、SECIモデルと現象学の親和性を指摘して、「主体と客体の同一性」→「全人格をかけた客体(他者)との知の格闘」→「他者との共感」の流れからイノベーションを論じています。

 社会学については、ソーシャルネットワーク研究による「弱いつながりの強さ」や「ストラクチャル・ホール」の理論などから分析しています。実感に近い部分を示すと、「弱いつながりを持つ人は幅広い知と知を組み合わせて、新しい知を生み出す」と指摘し、理論を裏付ける多くの実証研究を紹介しています。

 以上、自社発行書籍の宣伝となりましたが、年末年始の長いお休み期間に、読んで頂きたい書籍としてお勧めいたします(編集長・大坪 亮)。