典型1:FOMO(取り残される恐怖)型ソリューション

 FOMO(Fear of Missing Out)、つまり他社に取り残される恐怖に駆られて生まれるソリューションである。このタイプは完全に中央集権化され、単一の企業によって社内で利用されるか、ごく限られたパートナー企業間で使われることが多い。

 こうしたソリューションが生まれる理由はえてして、自社が革新的であるとアピールしたいためだが、ブロックチェーンが事業にどう価値をもたらすのか、あるいは事業目的に対してそれが最適な技術なのかは、十分に考慮されていない。その結果、既存のテクノロジー施策にブロックチェーンを無理やり導入したが適していない、という形になりうるのがFOMO型プロジェクトである。

 指令の出所によっては、最も上級の幹部にさえも、取り組みに従うほかに選択肢はないと感じさせる場合がある。某地域金融企業のCIO(最高情報責任者)はいみじくも、筆者らにこう言った。「あなた方はわからないでしょうね。うちのCEOから、『ブロックチェーンをやれ』と言われたんですよ」

 FOMOに根差したソリューションは、あまり価値を生まないとはいえ、まったく無意味とも限らない。自社は最新のトレンドにいち早く乗っている、というメッセージを市場に送ることはできるかもしれない。見込み客から見直される可能性もある。競合他社も、やはり取り残されたくないという気になり、時間とリソースをブロックチェーンに投じるかもしれない。

 ただし、FOMOが裏目に出る場合もあるので注意しよう。計画がずさんなプロジェクトから、わずかな価値しか生まれなかったとき、リーダーは「ブロックチェーンを試したが、失敗した」という勘違いの結論に至るかもしれない。実際には、単にユースケースが間違っていただけだ。この種のソリューションはまた、既存のシステムとプロセスに負担をかけ、効率向上につながらない追加コストを生みかねない。

典型2:トロイの木馬型ソリューション

 このタイプでは、単一の有力なプレーヤー(巨大デジタル企業など)や、サプライチェーンにおける有力企業、あるいは小規模のグループが、ブロックチェーンのソリューションを開発し、エコシステム内のほかの参加者に利用を呼びかける。

 これを「トロイの木馬」と名づけた理由は、外から見れば魅力的に映るからだ。その背後には尊敬されるブランドがついている。往々にして強固な技術基盤を持っている。多くの場合、その業界において既存の、高くつく、広範囲に及ぶ問題に対処してくれる。

 ただし同時に、そのソリューションは参加企業に対し、会社のデータの共有と、ある程度の権限や影響力の委譲を義務づける場合がある。それによって、ブロックチェーンの主たる所有者にとって有利な形での市場統合を図るのだ。

 ウォルマートによる、ブロックチェーンを活用した食品追跡は、トロイの木馬型ソリューションの例となりうる。

 取り組みを始めた理由として同社が挙げる「食の安全化」は、理にかなっている。ブロックチェーンがない環境では、汚染を引き起こした農場や加工工場の特定に数週間かかる場合があり、その間に多くの人々が病気になるかもしれない。網羅的でアクセス可能な追跡記録があれば、ウォルマートのような小売店は汚染の発生源を迅速に発見でき、根本から阻止できる。

 中国のeコマース大手アリババも、似たようなソリューションを立ち上げた。農産物の追跡と記録を向上させ、まがい物の粉ミルク、ワイン、はちみつ等々の販売を防ぐのが狙いだ。

 ただし、トロイの木馬型ブロックチェーンの参加者にはリスクもある。所有者の技術に依存し、契約条件に縛られることだ。

 時とともに、トロイの木馬はサプライサイドのデータを蓄積するにつれて、より大きな支配力を行使するかもしれない。参加者はその高いリスクと引き換えに、ビジネス通貨を得ることになる。

典型3:日和見的ソリューション

 日和見的ソリューションは、従来の方法ではうまく対応できていない、「記録の管理」にまつわる既存の問題や機会に対処することを目的とする。

 その例として、オーストラリア証券取引所が、金融取引の合理化を期して現在開発中のブロックチェーン・ソリューションがある。また、米国の金融システム上で取引後の精算・決済を仲介するDTCCも、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の取引記録を管理するためのブロックチェーンを開発した。

 日和見的な実験は、たとえリアルタイムのオペレーション・プラットフォームへと結実しなくても、参加者に価値をもたらしうる。

 中東にある某銀行の元CIOは、参加していたブロックチェーンのプロジェクトから6ヵ月で離脱したときのことを語ってくれた。この経験を通して同社は、ブロックチェーンに対する自信を持つことができ、従業員は新しい技術的スキルを獲得したという。

「ブロックチェーンがどう機能するのかについて知見が深まり、コストもほんのわずかでした。このテクノロジーから離脱するという戦略には至りましたが、参加企業としての経験は残ったわけです」。こう述べたあと、彼は付け加えた。「それに、当社のいいPRになりましたよ!」

 日和見的ソリューションは、データと契約に関して、ある程度の権限の委譲を伴うかもしれない。しかし、この銀行のCIOが認めたように、経験値という見返りが得られる。

典型4:発展型ソリューション

 このタイプは、分散型の運営によるトークンの使用に向け、経時的に成熟していくよう設計されたものだ。

 その一例は意外ながら、欧州サッカーを統括する機関、UEFA(欧州サッカー連盟)である。UEFAは、スイスのハイテク企業SecuTixおよびTIXnGO(ともにスイスのIT企業ELCAグループの傘下)と協業し、サッカーのチケットがより安全かつ公平に販売される流通市場をつくるための、発展型ソリューションに取り組んでいる。

 このプラットフォームの仕組みとして、まずチケットの買い手にSecuTixとTIXnGOのアプリをダウンロードしてもらう。アプリはブロックチェーンに接続され、チケットはトークン化されているため、このプラットフォームはチケットの購入を記録でき、所有権の詳細をリンクできる。所有者がチケットを友人や家族に譲りたい場合は、アプリで実行でき、その譲渡記録がブロックチェーンに送信される。

 所有者がチケットを一般市場で売りに出したい場合は、SecuTixのプラットフォームが、転売者に許容される値上げ幅を規定する。この仕組みによって価格のつり上げを防ぎ、不正転売者の参加意欲を抑制するのだ。

 このチケット流通市場は時とともに、エコシステム内のすべての二次販売者をつなげる、分散化された販売ネットワークへと発展しうる。発展型ソリューションにおいて参加者がビジネス通貨を得るには、低~中程度のリスクが引き換えとなる。

典型5:ブロックチェーン・ネイティブ型ソリューション

 第5にして最後のタイプは、新たな市場の創出や既存のビジネスモデルの破壊を目的に、スタートアップか既存企業のイノベーション部門によって開発されたソリューションだ。初期にはトークンも分散型運営も伴わないかもしれないが、市場が成熟するにつれて、その方向へと進むよう設計されている。

 ブロックチェーン・ネイティブな活動が見られる分野の一つは、高等教育である。オックスフォード大学とケンブリッジ大学の学者グループによって創設されたウルフ大学は、非営利の「ボーダレスなデジタル教育社会」を目指している。いわば、分散化された「学位課程のエアビーアンドビー」だ。

 ウルフ大学は安全に保護された契約を介して教授と生徒をつなぎ、学習のやり取りの記録を保存する。この仕組みを通じて生徒は単位を取得し、教授は報酬の支払いを得る。

 ゲームの分野にも、急成長しているブロックチェーンのコミュニティがあり、エンジン(Enjin)などのソリューションがある。エンジンが運営するゲーム・プラットフォームでは、ユーザーはゲームをサポートするために独自のトークンを作成することができる。

 ブロックチェーン・ネイティブ型のソリューションは、レガシー産業に新たなビジネス手法をもたらすだろう。ここでは「未検証の技術」が大きな通貨リスクとなるが、自社のデータをみずからコントロールしたい、分散化の実験をしたい、という参加者にとっては魅力的なはずだ。

 ブロックチェーンのソリューションは事業者に対し、データの共有と業務プロセスをめぐる既存の課題に対処するための、新たな方法を提供するものである。しかし、それを買う側は、データ、技術、アクセス、契約というビジネス通貨に関する権限を、過度に移譲しないよう注意が必要だ。自社の選択肢とリスク許容度を、熟慮してほしい。

 とはいえ、懸念のあまり市場参入を避け続けていてはならない。デジタルの世界における競争の条件は、いま決まろうとしている。企業は真のブロックチェーン・ビジネスによって、競争に勝つチャンスが得られるのだ。


※本稿は、デイビッド・ファーロンガーとクリストフ・ウズローの共著The Real Business of Blockchainからの抜粋である。


HBR.org原文:The 5 Kinds of Blockchain Projects (and Which to Watch Out For), October 21, 2019.

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デイビッド・ファーロンガー(David Furlonger)
ガートナーのバイスプレジデント兼リサーチフェロー。The Real Business of Blockchain(未訳)の共著者。

クリストフ・ウズロー(Christophe Uzureau)
ガートナーのバイスプレジデント。The Real Business of Blockchain(未訳)の共著者。