まず、数学を敬遠する若い世代に、数学に触れる機会を提供する。たとえば、データにもとづく経験的思考を促す授業を、専攻に関係なく必修とする。

 バーナード・カレッジは伝統的に、ダンスとライティングを学ぶ学生が多いことで知られているが、現在は基本的なカリキュラムで経験的思考を必修にしている。データ中心の授業についていくのが大変だという学生のために、(相談室などで)チューターに相談して、「自分は数学ができない」という思い込みを軽減できるような支援もしている。

 次に、雇用主はSTEM分野のインターンシップを通して、さまざまな分野に関心がある学生に門戸を開いていることや、積極的に受け入れている姿勢を、明確に示す必要がある。

 コンピュータサイエンス専攻の学生ばかり探さないほうが賢明だ。コンピュータのスキルや才能は完璧ではなくても、学習する態度と意欲に優れている学生を採用できる可能性がある。このような機会は、インターンにとっても会社にとっても意外な発見につながるだろう。

 聡明な学生は、問題に取り組んでデータの使い方を学ぶ機会を与えれば、数学に不安を感じている人でも、自分のやっていることや成功したことに意義を見出しやすい。STEMインターンシップはさらに、数学やコンピュータのスキルに似たような疑問を感じて克服した経験を持つ上級幹部と、学生を結びつけることもできる。

 米国の労働者が、これからの時代の仕事で成功するためには準備が必要だ。その手助けをするために、大学と雇用主はキャリア開発の一部として、先進的な数学とコンピュータの訓練を継続的に提供しなければならない。それらの分野に大きな不安を抱いている人にこそ、必要だ。

 先進的な企業は、すでに実践している。ディズニーは昨年、「CODE:Rosie」プログラムを発表して話題になった。技術職以外の部門で働く女性従業員にソフトウエア開発を学ばせて、修了後は社内で新しい分野に挑戦することができる。これは雇用主にとっても、優秀な人材をつなぎとめて成長させる重要な戦略となる。たとえば、文章がうまくてアイデアを明確に説明できる人が、スプレッドシートも読めるようになる。

 最後に、数学嫌いが社会的に受け入れられている状況を、私たちが否定しなければならない。

 考えてみてほしい。とても知的な人が自分は字が読めないと宣言することはまずないが、彼らが「自分は理系ではない」と言うのはよく耳にする。こうした否定的な感情を自分や他人に言い続けていると、数学嫌いが全体的に増えているという通説が定着する。

 数学を敬遠する学生は、自分の仕事とキャリアパスをみずから限定して、それ以外の道を諦めているのだ。自分がコンピュータの仕事をするなんて想像ができないから。しかし、多くの人が数学の能力は変えることのできない資質だと思っているが、学習して達成できる分野であることは明らかに証明されている

 米国人が将来、STEM分野の仕事で競い合うためには、数学嫌いの人たちが数学を敬遠するのではなく取り組むように、手助けすることが必要不可欠だ。そうしなければ、STEM分野で成功する可能性を持つ人が減ってしまう。数学を中心とする授業を全員必修にするなど、学校にできることもある。職場では、数学以外の分野で優れている人に、数学とコンピュータの研修を実施する。

 バーナード・カレッジでは、2019年の卒業生の3分の1以上がSTEMを専攻した(女子大学生の全国平均は約21%)。この数字を見る限り、希望が持てるのだが。


HBR.org原文:Americans Need to Get Over Their Fear of Math, October 23, 2019.

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シアン・バイロック (Sian Beilock)
バーナード・カレッジ学長、認知科学者。著書に、『なぜ本番でしくじるのか』『「首から下」で考えなさい』などがある。