●補強

 これは自然災害リスクに対して推奨される、最もよくある対処法だ。しかし、それが「正しい」対処法である場合は限られる。その成功例として挙げられるのは、テキサス州ヒューストンのテキサス・メディカルセンター(TMC)だろう。

 2001年にハリケーン「アリソン」の大打撃を受けたTMCは、護岸壁や高架道路の建設、さらには電気設備を上階に設置するといったレジリエンス強化策に、莫大な投資を行った。その結果、2017年にハリケーン「ハービー」が到来したとき、ヒューストン近郊は想像を絶する降雨量に見舞われ、数週間にわたり浸水が続いたにもかかわらず、TMCはほぼ無休で活動を続けることができた。すなわち、この場合、補強への投資は合理的な対処法だったのだ。

 これは第1に、ハリケーンの直撃を受けた場合の直接的・間接的コストが巨大なため、たとえレジリエンス投資の効果が確実ではなくても(要するに、ふたたびハリケーンの直撃を受ける保証はなくても)、TMCは資金を調達することができた。第2に、設備投資を少しずつ増やしたため、バランスシート上管理可能だった。

 だが、経済的には、レジリエンス投資が常に合理的な選択肢であるとは限らない。海面上昇や大雨や火災の対策ならば、費用対効果を無視して、何でも投資すべきだというわけにはいかない。どこかの時点で、異なる対策に目を向ける必要がある。それはいつなのか。

 ●撤退

 これは、補強とは反対のシナリオだ。メリーランド州エリコット市では、近隣の河川が数年連続で氾濫したため、小規模商店やレストランが、歴史あるダウンタウンから乾いた高地へと集団で移転した。

 これは正しい選択だった。たび重なる洪水は、これらの店のバランスシートに大きな損失をもたらした。上げ床にしたり、防波堤を建設したりといった補強工事は高額で、それをカバーするだけの資金もなかったからだ。

 ●再開

 マイアミ市とマイアミビーチでは、海辺に商業ビルまたはコンドミニアムを建設するときは、1階の天井を高くするとともに、高額の機器を2階以上のフロアに設置することがほとんどだ。また、建材や調度品の材料は、一時的な海水の浸水に耐えられて、ポンプで排水でき、迅速に洗浄して再び使える素材を採用している。ベネチアのサン・マルコ広場が洪水に見舞われたとき登場する、木製の歩道もそうだ。

 どちらの場合も、補強でも撤退でもなく、「水とともに生きる」こと、つまり費用対効果の高い再開方法を確保することに力を入れている。

 ●再建

 これはテキサス州ヒューストンバージニア州ハンプトンローズの住宅所有者たちが選んだ方法である。どちらの街も自然災害に見舞われるたびに、米連邦緊急事態管理局(FEMA)が数千戸の住宅再建に資金を提供してきた。再建は素晴らしい選択肢だ――そのための資金がたっぷりあるなら、あるいは他人のお金で再建できるなら、なおさらである。

 だが、長期的には、「いつまでこの資金をもらえるだろうか」「ひょっとすると今後は、もっと大変な被害を受けた人たちか、USニューズ&ワールド・レポートが報じたように、金持ちが優先的に救済されるのではないか」「危険な地域に住み続ける自分たちを支援することに、納税者はいつまで賛成さしてくれるだろう」と心配すべきだろう。

 連邦議会は近年、自然災害に見舞われたカリフォルニア、アイオワ、テキサス、フロリダ、ニューヨーク、プエルトリコなどのために、NFIPの補助に加えて、年間2000億ドルの支出を承認してきた。しかし連邦政府は現在、莫大な財政赤字を抱えており、この気前のよさが永久に続く保証はない。

 ●規制

 これは、民間の住宅ローン会社と保険会社がすでに取っている戦略だ。報道によると、これらの企業は、危険な投資から手を引きつつある。不動産投資信託(REIT)などの大型資産の保有者や、新たな出店先を検討中の小売店も、ハイリスク地区の物件購入や建設を避けているという。

 公共政策上の視点も存在する。電力大手のパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(PG&E)は最近、カリフォルニア州で発生した山火事による、巨額の損害賠償を負担しなければならないことになった。そもそも地方自治体が、こうした構造物の建設を規制すべきだったとも言える。

 今後も、多くの魅力的な地区(沿岸都市や西部の州など)では、成長の圧力が高まるだろう。米国人はそのとき、厳しい決断を迫られることになる。

 これまでは政府が補助する住宅ローンや、人為的に安く設定された保険のおかげで、私たちは難しい判断を先送りにすることができた。だが、大規模な価格調整(とそれに続く経済的な打撃)を回避するためには、潜在的な危険地区に不動産を所有するすべての人が、上記5つの対策のいずれかを選ぶ必要がある。

 環境や危険レベル、潜在的な被害のコストや補強費用、そして調達可能な資金レベルによって「正しい選択」は変わってくるだろう。重要なのは、住宅所有者や投資家、市長、そして一般市民の誰もが、過去ではなく未来を見て、その選択をすることだ。まだ選択肢が残っているうちに。


HBR.org原文:Climate Change Is Going to Transform Where and How We Build, October 16, 2019.

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ジョン D. マコンバー(John D. Macomber)
ハーバード・ビジネス・スクール専任講師。ビジネスと環境、社会的事業イニシアチブを教えている。