AI、IoTの普及に伴い、AI人材やデータサイエンティストの獲得競争が過熱している。産業界の要請を受けて、新学部設置などデータサイエンスに注力する大学も増えている。2018年4月に本格始動した早稲田大学データ科学総合研究教育センター(DSセンター)もその1つだが、教育と研究の双方に効果をもたらすことを狙うという点でユニークな特徴を持つ。DSセンターのコンセプトやこれまでの取り組み、今後の展開などについて、所長の松嶋敏泰氏に伺った。

データサイエンスはすべての学問領域で必要になる考え方

――「データ科学総合研究教育センター(DSセンター)」を設立した背景について伺います。

松嶋 敏泰(まつしまとしやす)
早稲田大学 データ科学総合研究教育センター 所長

1980年、早稲田大学大学院修士課程修了。日本電気、横浜商科大学専任講師、早稲田大学理工学部工業経営学科助教授、同大学経営システム工学科教授などを経て、同大学基幹理工学部応用数理学科教授。2017年より早稲田大学データ科学総合研究教育センター所長を兼任。

 背景の1つとしては、さまざまなデータが大量かつ安価に収集できるようになってきたことがあります。データ科学(データサイエンス)の重要性は、実は早稲田大学の創設者である大隈重信が100年以上も前から唱えていました。国の施策を検討するにあたっては、統計をしっかり分析して、そこから積み上げていく必要があると説き、総務省統計局や統計センターの前身である統計院を設置したことは有名な話です。

 データを集めて分析し、最適な意思決定をすることは、いつの時代も言われてきたことなのですが、昔は統計データを集めるだけで大変な労力を要したのに対し、現在は簡単に集められるようになりました。しかも、数値データだけでなく、テキストデータ、音声・画像データなども容易に収集でき、それを処理するコンピューティング技術も飛躍的に進展しました。

 日本で「データサイエンス」というと、バズワード的なビジネス用語として使用されるケースも多いのですが、我々としては最近の流行りではなく、100年以上も前から当たり前の話であり、その意味するところは、ジム・グレイが提唱した「Data science as a fourth paradigm of science(データサイエンスは新しい科学のパラダイム)」「(data-driven science)データ駆動型の知の創造パラダイム」と軌を一にします。

 つまり、いままで人間は五感を使って情報を収集、解釈し、新しい知を創造してきたわけですが、いまは多種多様で大量なデータが利用可能で、それをコンピュータの力を借りて分析し、新たな意思決定や知の創造を行うことが可能になりました。これこそが「データ駆動型の知の創造パラダイム」です。

 新しい知を創造することは、あらゆる分野において必要なことであり、データサイエンスは決して新しい学問領域ではなく、すべての学問領域において不可欠な考え方です。当然、知の継承・創造の拠点である大学も変わっていかないといけません。それは新学部をつくるというレベルの話ではないというのが早稲田大学の考え方であり、DSセンターの構想につながっていきました。

 名称に「研究教育センター」とあるのは、研究も教育も両方やるということです。そもそもどうやってデータから正確な意思決定をしていくかということを学生に学んでもらわないといけませんから、教育が必要になります。専門性を持っていながら、データで実証する能力を身につけた人材は、これからますます重要になるでしょう。それだけではなくて、データ駆動型研究パラダイムを進化させることによって、新しい知を創造することができれば、複雑でグローバルな社会問題の解決にもつながるかもしれません。いくつかの専門領域の学生や研究者が集まることで、紛争や環境問題なども解決できるかもしれない。教育効果と研究効果の2つを目的として、DSセンターは設立されました。