(1)一流校に入ること

 このジョブを抱える学生が求めているのは、美しいキャンパスと名門大学のブランドのもと、新しい人々と出会って自分をつくり変えたいという、昔ながらの大学体験である。ただし、彼らは入学してから何をするかをほとんど考えていない。彼らにとっての進歩は、入学許可を得ることに尽きる。

 このジョブの学生が数学を専攻するなら「ハーバード大学で数学の学位を取りたい」と言うだろう。このグループにとっての進歩は一流校――彼らの定義による一流校――に入ることと、明確に結びついている。

教育機関へ:このジョブに十分な条件が整っている大学は少なくない。多くの学生は、刷り込まれてきた伝統的な大学体験を「購入」しているからだ。このジョブで勝ち残れる大学は限られているかもしれない。

(2)期待に応えること

 このタイプの学生は、親や配偶者、友人、進路カウンセラー、教師、メンター、コミュニティなど、誰かが自分にかける期待に応えようとしている。(1)の一流校に入りたい学生と同じように、大学は人生で次に進むべき、当然のステップだと思っている。

 彼らもまた他の選択肢がない、というより、見えていない。自分の選択については無関心だが、学位を取ればセーフティネットになり、それに頼れるはずだと自分に言い聞かせている。

 このジョブを抱える学生は「数学が得意だと母に言われたので、専攻しています」などと言う。多くは一流校に入ることを目指してきたが、理想の大学に入れなかったので、人から期待されたことをするしかないと思っている。

教育機関へ:カウンセリングを通して、この手の学生にはギャップイヤー(入学資格取得後、見聞を広めるため入学まで猶予期間を与える制度)を利用させるか、あるいは「乗換駅としての大学」、つまり学生が自分にふさわしい学校に入るまでの短期の滞在地としてみずからを位置づけるとよい。

(3)逃げ出すこと

 このジョブを持つ学生は、本業から逃れたり、現在の習慣をやめたり、家や家族、住んでいる町や特定の関係から離れることを目指している。支援してくれる人がいる場所へ行くことが目的で、学位の欄にチェックできるようになれば、なおよい。

 このジョブを抱えて数学を専攻している場合、「私は、そこそこ数学ができる。いまいるところから抜け出すために、数学を専攻しよう」と学生は考えている。とにかく現在の状況から逃れたいだけで、いったん逃れてしまえば、ジョブは成功だ。だがたいてい、その次をほとんど考えていないので、自分が選んだ教育体験に過剰な時間とお金を注ぐことを受け入れることになる。

教育機関へ:学生が何に対して情熱を注ぎ、何が好きではないかを学べるように、初年度のプログラムを改造する。

(4)向上すること

 このタイプの学生は、人生のある部分で自己実現できていないとき、学校に目が向く。

 現在の雇用主や役割、習慣から抜け出したいと願い、もっと向上して有能になりたいという心構えがある。たいてい切羽詰まっていて、いま行動を起こさなければ先が見えないと不安を抱いている。彼らは特定の実践的なスキルや資格があれば、もう一度、軌道に乗れるとわかっている。

 このジョブを抱える学生は、給料の良さからデータアナリストになりたいと思っているかもしれない。そして数学を専攻することが、その仕事への近道だと思っている。

教育機関へ:学生が願う結果に到達できるよう、明確な一定の学習体験ができる経路を、できるだけ手頃な形でつくり出す。

(5)力を出し切ること

 このジョブの学生は、さらに勉強して自分の限界に挑戦し、明確なビジョンを追求して、実践的なスキルや資格を取得することを目指している。人生は順調で、現在はビジョンの追求のために時間と資金を確保できる状態だ。

 このジョブの学生が数学に興味を持つことで、もっと現在のクライアントの役に立つことができる、あるいは、数学への深い好奇心があるからだ。もともと数学そのものに関心があり、(4)のジョブの学生ほど向上することへの切迫感はない。

教育機関へ:できるだけリスクの低いプログラムにして、入学しやすくする。出席する学生の精神的理由に沿うように、プログラムでの体験を高度に個人化する。

教育機関にとっての意味

 学生が数学を専攻したいと言っても、これまで見てきたように、それぞれのジョブは異なる。

 すべての大学が彼ら全員を数学専攻の学生として受け入れなければならないわけではないし、全員に役立つ条件が整っているわけではない。しかしながら、大半の大学はそのようにしてきた。

 ほとんどの高等教育機関はすべての学生にとって役立とうとするあまり、最大公約数的なプログラムを提供してきたが、実際には誰の役にも立っていない。しかも、多様な入学の動機を持つ学生に対処するのは複雑すぎて、途方もない間接費がかかる。

 むしろ、教育機関は厳しい選択をしなくてはならない。どのジョブなら成功に必要な体験を大学として提供できるのか、見極める必要がある。その決定を軸として、大学側は何が得意で、どう組織運営すべきかが決まり、自然と何を意図的に不得意とすべきかも明らかになる。それはすなわち、教育機関側の設計と相性のよくない学生は受け入れるべきではないということでもある。

 学生がどんな進歩を求めて入学するのかを教育機関が理解しない限り、企業の期待を裏切り続けるだろう。そしてそのツケを払うのは、学生であり雇用者であり、社会なのだ。


HBR.org原文:Do Colleges Truly Understand What Students Want from Them? October 15, 2019.

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マイケル B. ホーン(Michael B. Horn)
Choosing Collegeの共著者。教育機関にイノベーションのあるサービスを提供するエンタングルド・グループの戦略責任者で、エンタングルド・ソリューションのシニア・パートナー。破壊的イノベーションを追求するクレイトン・クリステンセン・インスティテュート共同設立者であり、特別フェローを務める。

ボブ・モエスタ(Bob Moesta)
Choosing Collegeの共著者。リワイアド・グループ共同設立者兼社長。破壊的イノベーションを追求するクレイトン・クリステンセン・インスティテュートのフェロー。ハーバード・ビジネス・スクール、マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・アントレプレナーシップ、ノースウエスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメントで客員講師を務める。