●トップから始める 

 企業文化を変えることは、トップダウンのプロセスだ。

 まず、リーダーが仲間になるところから始めよう。エグゼクティブや管理職、幹部社員が、スタッフ全員のミーティングなど、チームとやり取りができる機会を利用して、自分自身の経験(あるいは親しい家族や友人の経験)を共有する。問題を公表することや傷つきやすさを、弱みではなく強みと捉え、メンタルヘルスの負のイメージを軽減して職場の透明性を高めるために、長期的な努力をする。

 CEOの役割も重要だ。最近の企業は、HRやDEI、人材開発など多くの部門でメンタルヘルスとの接点がある。しかし、メンタルヘルスに関する企業の説明責任を明確にするために、経営者が先頭に立つことは、めったにない。

 メンタルヘルス問題の広がりや、従業員が企業の取り組みを求めていることを考えれば、もはやCEOが無視することはできない。彼らが率先して、CHRO(最高人事責任者)とともに、メンタルヘルスを当たり前に語れる環境をつくり、それを受け入れる文化を浸透させる手助けをしなければならない。

「SAPのビル・マクダーモットCEOが、ウェルネスとマインドフルネスを積極的に推進していることは、10万人の社員に向けて、会社は精神的な安心を守る文化を真剣に築こうとしているという明白なメッセージになる」と、SAPのマーケティングおよびコミュニケーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのニック・ツィツォンは言う。

 ●教育に投資する

 トレーニングはすべての従業員にとって不可欠だ。特に管理職は、職場でメンタルヘルスの問題をどのように語り、標準化して、舵をとればよいかを学ぶこと。

 管理職がメンターになろう、というわけではない。しかし、会話や行動を通じてメンタルヘルスの負のイメージを軽減するために、利用できるツールに関する基本的な知識は必要だ。さらに、メンタルヘルスの症状や、職場での広がりと影響、苦しんでいるかもしれない従業員を認識して対応する方法も、知っておかなければならない。

 管理職は一人ひとりに敬意を持って接しなければならず、万能の解決策はない。そのためのトレーニングが必要になる。

 SAPのツィツォンは、メンタルヘルスはインクルージョンの次の波になると考える。ただし、結果を恐れずに自分の状況を率直に打ち明けてもいいと従業員が安心できなければ、メンタルヘルスを受け入れる文化は実現しない、とも指摘する。「自分が抱えていることを何でも職場でオープンにできるように支えるリーダーは、最も実効性があり、最も称賛されるだろう」

 ●支援を提供する

 企業は少なくとも、メンタルヘルスを支援する具体的な福利厚生を提供しなければならない。すでに支援体制がある企業も、その内容を明確に伝えることと、秘密保持について理解する必要がある。

 多くの従業員は、自分の会社がメンタルヘルスのリソースを提供していることを知らないか、実際に利用することに不安を感じている。今回の研究では、企業のメンタルヘルスのサポートを利用する適切な手続きを知っている従業員の割合は、ミレニアル世代がベビーブーム世代よりも63%多かった。

 福利厚生の内容をすべての従業員に確実に知らせる一つの方法は、彼らに話をすることだ。入社時のオリエンテーションだけでなく、毎年、定期的に確認することもできる。メンタルヘルスについて個別に調査を行ったり、従業員のエンゲージメントに関する既存の調査の中で、メンタルヘルスの具体的な質問をしたりすることは、メンタルヘルスに対する従業員の考え方を評価して、企業の説明責任を果たすために有効だ(評価した問題は解決しなければならない)。

 ベライゾンメディアジョンソン・エンド・ジョンソンリテールミーノットなどの企業はさらに踏み込んで、DEI戦略の一部として従業員リソースグループ(ERG)を活用している。このようなグループを通じて会社全体でメンタルヘルスに対する意識を高め、メンタルヘルスの症状を抱えている人、支援する人、助け合う仲間が集まるフォーラムをつくることもできる。DEI戦略にメンタルヘルスを加えることは、職場で本当の自分を出しやすくするための重要な支援だ。

 メンタルヘルスの問題を抱える従業員(大半の従業員が一度は当てはまる)を支援できることは、次世代の職場にとって決定的な問題になりつつある。進歩は見られるが、メンタルヘルスについて話すことや、治療に対する負のイメージを払拭するためには、さらに努力が必要だ。いまのところ、組織全体の当事者意識が欠けていることと、問題が起きてから対応するというアプローチが、従業員が安心してメンタルヘルスを語れる文化の形成を阻んでいる。

 幸い、まだ変わることはできる。まずは、メンタルヘルスの問題が役員室でも現場でも同じように広まっていることを認識して、適切な教育と支援を導入し、独立したDEIの問題として取り組もう。

 CEOは会社の前例となり、文化を築く手本になるべきだ。しかし、すべての従業員にそれぞれ役割がある。どのような形であれ組織の文化を変えるには、トップダウンとボトムアップの両方向が必要だ。それは、メンタルヘルスも例外ではない。


HBR原文:Research: People Want Their Employers to Talk About Mental Health, October 07, 2019.

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ケリー・グリーンウッド(Kelly Greenwood)
マインド・シェア・パートナーズ創業者兼CEO。メンタルヘルスに関する職場の文化を変えて、従業員と組織の繁栄を目指す非営利組織。大手企業にトレーニングや戦略的な助言を提供し、専門家のコミュニティを運営して、社会の関心を高めている。

ヴィヴェク・バパト(Vivek Bapat)
SAPのマーケティングおよびコミュニケーション担当シニア・バイスプレジデント。企業の上級幹部や世界的なインフルエンサーと連携して、ブランド、コンテンツ、顧客と従業員のエンゲージメント戦略を発展させている。ツイッターは@vivek_bapat

マイク・モーガン(Mike Maughan)
クアルトリクスのグローバル・インサイツ部門の責任者で、エクスペリエント・マネジメント(経験管理)の概念を提唱した。5フォア・ザ・ファイトの共同設立者でもある。ソート・リーダーシップとリサーチ、CSR、PRおよびAR(アナリストリレーションズ)、スポンサーシップなど、クアルトリクスのグローバルなコミュニケーションと戦略を束ねる。