阻害要因:無意識の怠慢
 解決法:プロジェクトを全社目標と連動させ、従業員に結果への責任を持たせる

 筆者が支援した、ある中規模企業のCEOは、自身のダッシュボード上で常に700件ほどのプロジェクトを進行させていた。案件から案件へと次々に渡り歩き、従業員のあらゆる企画にゴーサインを出したが、結果への責任を課すということをしなかった。次々とプロジェクトが量産されたことで、従業員間ではプロジェクトを完遂できない、優先順位がわからない、燃え尽きてしまうといった事態が生じた。

 自分のチームの誰かが無意識の怠慢に陥っていたら、それが目についたときに指摘する必要がある。放置すれば、当人はそれを問題と認識せず、他のチームメンバーへの影響も理解できないままだ。

 従業員は、自分たちの目標をどのように達成できるのか、そして過去に何が成功の妨げとなったのかについて、立ち止まって熟考することが不可欠である。そうすることで初めて、効果的に前へと進めるようになる。

 前述のCEOは、もし自社の戦略的優先事項にもとづいて最優先のプロジェクトに焦点を絞っていれば、従業員はエネルギーをより効果的に集中させて、プロジェクトを完遂できたはずだ。

 リーダーは、ゴーサインを出したプロジェクトに従業員が意欲を持って尽力できるよう、万全を期すことも必須である。従業員は、自身の価値観が役立ち、強みを活かせる目標ならば、より達成しやすい。リーダーは時間を費やして、チームメンバー個々人の仕事のやり方、才能、モチベーションを見極めるべきである。そして得られた情報をもとに、チームを導くのだ。

 情熱を持って仕事に取り組めるようチームを後押しできたら、目標がFASTになるよう協力して取り組もう。すなわち、頻繁に話し合い(Frequently discussed)、野心的で(Ambitious)、具体的で(Specific)、透明性が高い(Transparent)目標だ。

 阻害要因:過剰な防衛
 解決法:メンターシップを奨励する

 過剰防衛に陥っている従業員は、自分のアイデアを包み隠し、人脈を狭く保つ傾向がある。

 筆者が支援した某スタートアップのリーダーは、自社のアイデアが他者に盗まれることを心配していた。そして、成功の兆しはまったく見えていなかった。

 状況がようやく変わったのは、事業のさまざまな部分について、アドバイザーに助言を求め始めてからである。アイデアと目標を他者と共有することで、彼は貴重な洞察を得て、収益を150万ドルから400万ドルに伸ばすことができた。外部との協働を通して、事業の買い手の興味を引くことにもなり、彼はその後、イグジットによる大きな利益を手にした。

 共有とメンターシップによって成功したのは、このクライアントだけではない。ウォーレン・バフェットは、経済学者ベンジャミン・グレアムの洞察を活用し、投資方針に多大な影響を受けた。ラリー・ペイジとマーク・ザッカーバーグの両者は、スティーブ・ジョブズの助言を取り入れ、アイデアを実り多きビジネスへと結実させている。

 自分のアイデアに鍵をかけておくよりも、幅広い人脈を築いたほうがはるかに有益だ。したがってマネジャーは、厳しいフィードバックを通じて向上を促してくれるメンターを従業員が見つけ出せるよう後押しするとよい。人脈に加えておくべき重要なメンターの種類は4つある。

・スーパースター:ロールモデルとなる人。メンティ(相談者、被育成者)の潜在能力を当人に認識させてくれる人。

・コネクター:自分の人脈を気前よく紹介し、重要なコネクションを与えてくれる人。

・リソース管理者:社内で利用できる全リソースについて把握しており、メンティに必要なリソースへのアクセスを後押ししてくれる人。

・責任遂行のパートナー:メンティの置かれた状況について耳を傾け、何らかの対処を引き受けてくれる人。

 こうしたメンターを見つけるために、さまざまな業界の専門家で構成されるグループ、起業家らの交流会、共通の職業的関心で結ばれたSNSグループへの参加などを従業員に促すとよい。

 阻害要因:過剰な自信
 解決法:最善の結果を目指しつつ、最悪の結果への備えをさせる

 従業員は自信過剰に陥ると、イノベーションに対して盲目となる。この状態にある人は、自分の先天的能力の重要性を過大評価し、チームや会社の全体的な目標を過小評価しがちとなる。

 リーダーは、彼らの視野が広がるよう助ける必要がある。新規プロジェクトの開始時に、予想される困難をリストアップするという手順を義務づけよう。さらに、トラブルの可能性に対する意識を高める、質問を投げかけるとよい。たとえば「この決定によって、どんな結果が生じうるのか」「不測の事態に備えて、どんな代替策があるのか」などだ。

 課題や困難を想定することで、行く手には問題がきっと待ち受けているという可能性を、従業員にはっきり認識させることができる。そうすれば問題が実際に生じたときに、それに対処する心の準備ができており、他者に助けを求めやすいはずだ。

 阻害要因:過剰な努力
 解決法:充電のための時間を必ず取らせる

 従業員は努力が行き過ぎると、発想力と活力を失う場合がある。イノベーションと創造性はしばしば、静かな時間の中で無意識の連想が形成されることで生じる。睡眠マインドフルネス趣味は、心の雑音を取り除き、発想力と活力を取り戻すうえで有効だ。

 自分には休息が必要だ、と認めることができる余地を従業員に与えよう。そして1対1で話し合うときには、充電の必要がないか定期的に尋ねるとよい。そうすることで信頼関係を築くのだ。人によっては率直に認めるのが苦手かもしれないので、当人の限界がどこなのかについて耳を傾けよう。

 注意すべき一般的なストレスの徴候として、過剰なコントロール、マイクロマネジメント、要求が多い、衝動的に振る舞う、柔軟性に欠ける、他者と距離を置く、過度に批判的、などがある。個々人によって、活力の度合いと、必要な対処はまちまちであることに留意しておこう。

 人を第一に考えるこのやり方において、もう一つ重要なのは、期待事項を明確に設定することだ。職責が不明瞭であることは、何よりもストレスになる。

 私たちは認知過多の時代に生きており、ミレニアル世代の49%は起床前にベッドの中でメールをチェックするという。チームの仕事が多忙になるとわかっていても、リーダーがメンバーに何を求めているのかを伝えることで、業務の進行が円滑になり、集団的な燃え尽きの防止にもつながるのだ。

 阻害要因:不当な評価
 解決法:アジャイルな環境での創造と働き方を、従業員に教える

 成功をつかむために、最先端の技術、充実したマーケティングリソース、あるいは有能な人材を手にいれることに自分の全エネルギーを費やす必要がある――。これが、不当な評価という悪癖に陥っている従業員の典型的な考え方だ。

 こうした心情はたいてい、不安から生じている。現状を検証すれば、自分が対処したくない問題が明らかになってしまうという思いから、今後それらの問題を克服できる可能性を闇に葬ってしまう。

 私のクライアントであったハイテク企業の某事業部では、イノベーションに努める過程で、1年間で10万ドル以上を市場分析に費やした。そして新製品の開発に大量のリソースを投じたが、望ましい成果は上がらなかった。1年後、市場に変化が起き、同社は従業員の一時解雇を迫られた。

 この会社は最良の結果を追求し、そのための出費に糸目をつけなかった。しかし、それは誤った考え方にもとづくものであった。イノベーションでカギとなるのは、準備、時間、能力である。多大なリソースを当然のように投入し、無駄にすることではない。

 再び同じ轍を踏むのを防ぐには、自律性、柔軟性、生産性を特徴とする業務環境をつくることだ。どの活動が時間やリソースを無駄にしているかを明らかにするために、従業員に状況を尋ねて確認しよう。そのうえで、会社に価値をもたらす物事にリソースが注がれるよう、業務プロセスを合理化すればよい。

 前述のハイテク企業の場合、戦略の原動力は、イノベーションではなく完璧主義であった。そして計画と、変化する市場環境との時間的なずれが、問題を生じさせた。つまり同社は、「素案を描き、まずは形にして、状況の変化に合わせて調整する」というやり方をしなかった。詳細な計画を立て、それを完璧に遂行することにいつまでも時間をかけていたわけだ。

 アジャイルな業務環境をつくることで、試行錯誤の余地が生まれる。そして最も重要な点として、変化に応じて修正する機会が組み込まれるのだ。

 VUCAに支配され、従業員の負荷が大きい今日の環境では、イノベーションに向けて部下の集中力を取り戻すことはマネジャーの責務である。

 筆者の研究およびビジネスリーダーへのコンサルティング経験を踏まえると、リーダーは本稿で示した5つの方法によって、従業員の足枷となっている阻害要因の克服を後押しできる。そして従業員の潜在能力を解き放てば、自社を成功に向かわせる体制が整うのだ。


HBR.org原文:5 Things Leaders Do That Stifle Innovation, October 04, 2019.

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ケリー・ゴイエット(Kerry Goyette)
アペリオ・コンサルティング・グループ会長。同社はワークプレイス・アナリティクスの活用と、研究にもとづく戦略の導入を通じて、高業績文化の構築を支援している。大学院で心理統計学と神経科学を修め、行動分析家および司法面接士の認定資格を有する。