個人で仕事をするための基本スキルを教える

 私は7年前から、ギグエコノミーに関する米国初のMBAコースをバブソン大学で開設し、そこで教えている。私が知る限り、同様のコースは他に存在しない。そこを変える必要がある。

 雇われずに働く独立ワーカーに必要なスキルの多くは、教えることができる。つまり会社のつくり方、小規模の事務管理、価格交渉、顧問契約交渉、マーケティングやブランディング戦略の立て方や実践方法などだ。ビジネススクールで教える、こうした基本スキルを再構成して、学生が個人で仕事をしたり起業したりしてギグのポートフォリオをつくれるようにすべきだろう。

 それらのスキルを教わった私のクラスの学生たちは、のちにさまざまな働き方をするようになった。

 卒業して何ヵ月も、あるいは何年も経った学生からメールが届く。自分の好きな仕事をやるために副業をしているという人や、定職を辞めて自分で小規模事業やコンサルティング会社を始めた人、新天地で、あるいは世界中を旅しながらリモートワークをしている人。自分で仕事を選べたり、家族のそばや好きな場所で暮らせたり、通勤の必要がないことがありがたいと話してくれる。いまの定職で働き続けることを選んだ人でさえ、将来その必要ができたり、気が変わったりしたときには、独立してやっていけると思う、という。

 これらは、一コースの学生による個々の事例にすぎないが、基本的な起業スキルを教えることが、学生の仕事や人生にどれほど大きな影響を与えうるかを示している。

キャリア支援の一環としてギグを斡旋する

 大学の就職課は、学生に正規雇用の職を斡旋することに注力し、これまではギグエコノミーの非正規雇用労働の増加や重要性を無視してきた。私自身は、調査や執筆、編集、またマーケティングやソーシャルメディアが関係するプロジェクトで、定期的に独立ワーカーを雇っている。求人には、アップワーク、クレイグリスト、リンクトインなど、さまざまなプラットフォームを利用している。

 大学の就職課は、このプロジェクトベースの仕事に対する理解が著しく乏しい。正社員の仕事でなければ職歴に数えないという思い込みに囚われ、学生が夏休みの間に仕事を経験したり、学期中に単発や短期の仕事ができるようにしたりする求人は、ほとんど扱っていない。就職課は、学生が「職」だけでなく「仕事」を見つける手助けをもっとすべきなのだ。

 変化の兆しはある。たとえば、テキサス大学オースティン校ウェルズリー大学では、キャリア支援の一環として、学生にギグエコノミーについて教え始めた。デポール大学音楽学部は、「ザ・ギグ・コネクション」という学生向けアプリを使って、学生がシカゴ中から寄せられる演奏依頼を確認できるようにしている。ボストン大学は、「クイックジョブ」という掲示板をつくり、落ち葉掃きから医学調査の助手、ウェブサイトの開発まで、さまざまな短期の求人を載せている。

 学生が短期のプロジェクトや仕事、ギグを見つけられる、こうした専用のプラットフォームやアプリはまだ珍しいが、いまあるものを見ると、今後のキャリア支援のあり方や可能性が見えてくる。

自分が実践していることを教える

 大学はギグエコノミーの熱心な当事者であるにもかかわらず、学生に定職に就くことしか教えないのは矛盾している。鏡を自分のほうにくるりと向けさえすれば、学生たちがこれからどのような「仕事の世界」に仲間入りしようとしているのか、見えるはずだ。大学自身のビジネスモデルやビジネスプラクティスこそ、雇用者が仕事や労働力にもたらしている変化を表したケーススタディなのだ。

 大学は個人請負に依存している。グーグル同様、多様で柔軟な労働力を持ち、すでに独立ワーカーの割合が高く、正規雇用者の割合が低い。これは、多くの大学で非常勤講師が増え、教員の半数かそれ以上を占めていることからもよくわかる。大学が相当数の独立ワーカーを雇用するトレンドの一端を担っているとすれば、学生もそうした未来に備えさせるべきだろう。

 教授のほとんどが副業を持っている。大学は、大学のブランドを高め、個人の収入の足しにするために、終身雇用の常勤教授には、コンサルティングや顧問の仕事、委託研究、役員職、講演といった単発・短期の副業を行うことを期待し、許可している。

 副業を求める「The Tenured Entrepreneur(終身雇用起業家)」は、大学教職員にとっては常識であり、例外ではない。国語や歴史といった伝統的なリベラルアーツの教授の間でさえ、たとえば本の執筆や、文学雑誌や大衆雑誌への寄稿、講演活動などが人気の副業だ。

 ところが、学生にとっては常識になっていない。ポートフォリオがなく、成績証明書だけを持って卒業する学生があまりに多すぎる。たとえ小さな単発仕事でも、別のコースとして、または既存のコースの一部として必須になれば、学生は多様な仕事を試し、具体的なスキルや仕事経験を得られるようになる。

 大学はオンライン化しつつある。大学は、学生がキャンパスに来ることを、コースの単位や学位を取得する条件から外しつつある。オンラインコースの遠隔授業やプログラムは、高等教育で急速に成長している新商品であり、学生は好きな時間と場所で学習できる。これと同じ自由度や柔軟性へのニーズが、個人のリモートワークの成長を牽引しており、大学の就職課が扱う求人や、新卒採用の求人にも反映される必要がある。

 ギグエコノミーは、企業の働き方、雇用の仕方を変革しつつある。企業は、正規雇用者の職をつくる代わりに、個人請負やコンサルタント、フリーランスを必要に応じて雇う方向に、いっそうシフトしている。

 社会に出て成功するには、学生は独立起業の方法、スモールビジネスの経営を学ぶ必要がある。なぜなら、これからはますます、私たち一人ひとりが自分のキャリアの中で、必ず1回は通る道になっていくからだ。大学は、自分たちがすでにやっていることを学生に教えることで、学生を就職要員にではなく、ますます独立するいまの時代の労働力に育てることができる。


HBR.org原文:Universities Should Be Preparing Students for the Gig Economy, October 03, 2019.

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ダイアン・マルケイヒー(Diane Mulcahy)
『ギグ・エコノミー』著者。バブソン大学でギグエコノミーのMBAコースを創設し、非常勤講師を務める。カウフマン財団のシニアフェロー。詳しくは、www.dianemulcahy.com.