日本企業がピボット実行の前で
つまづく理由とは

――あらゆる業界のCEOが変革の必要性を認識していると思いますが、なぜ意思決定ができないのでしょう?

「変革するリスク」は定量的に評価しているものの、「変革しないリスク」については議論されず、評価できていないことが一番の原因でしょう。例えば、企業に対してピボットの成功事例を紹介すると、危機に直面していると認識している場合は、そこから変革のヒントを得ようとします。その一方で、「“外資だから”“オーナー企業だから”できたのだろう」といった特殊性を引き合いにして、自社ではできないという結論を出してしまう企業もあります。なぜそうなるかというと、「変革しないリスク」強い言葉でいうと「既存事業の寿命」をしっかりと評価できていないため、創造的破壊をもたらす未来が思いのほか早く近づいていることを具体的に認識できていないからです。

 実はむしろ、不確実性が大きい「変革するリスク」よりも、「変革しないリスク」のほうが定量化しやすいのです。自分たちがその事業や市場の第一人者なら、自社を取り巻く市場環境や脅威を客観的に洞察すれば、自社が今後どのように衰退していくのかがはっきり見えるでしょう。どんな事業にも寿命があり、盛者必衰は残念ながらビジネスにも当てはまるセオリーだと考えております。その中で既存事業の将来を冷静に評価し、個別事業ではなく企業全体の成長を目指すのであれば、変革しない限り未来はなく「不退転の決意を持って変える」という結論にならざるを得ないはずです。

 既存事業を破壊するまたは既存事業の収益を圧縮する大きな要因は新たなテクノロジーです。ですから、新たなテクノロジーが登場したときに、自社にどのような影響を及ぼすかをもっと議論すべきです。

 ただし、その時に注意したいのは、多くの日本企業の経営陣はテクノロジーそのものに目を向けてしまいがちなこと。例えば、アメリカの西海岸や中国深センのスタートアップ企業との議論で、欧米企業の経営陣はそのテクノロジーがどのようなサービスに応用できるのか、既存ビジネスのコストをどれだけ下げるのか、あるいは既存事業のどこを傷つけ、何を奪っていくのかということを冷静に議論していたのに対し、日本企業の経営陣は、先方のプレゼンを受動的に聞き、質問は技術自体に関することが多い。あくまでも一般的な例ですが、こうしたテクノロジーとの向き合い方についても意識改革が必要です。

 多くの日本企業が変革を苦手としているのは、日本人に根づいたカルチャーも影響しているように感じます。

 世界的なベストセラー、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』は、現在の世界に広がる富と文明の「地域格差」を生み出したものは何かを解き明かしています。それによると、地球上で今日繁栄している地域が人類誕生の地であるアフリカではなく欧州なのは、競争や人の移動、情報などが多く、変革を繰り返してきたから。それに比べ、島国に住んできた日本人は人の行き来や情報が少なく、江戸幕府はおろか室町時代も300年も続いたように、変えるということに対するアレルギーが非常に強い民族だからともいえるでしょう。変わらないことが、農耕文化には合っていたことも見逃せません。ですが、グローバル化が進展したいま、そのDNAに抗う力が必要とされているのです。