●引き続き懸念されること

 報告書を読んで、筆者が懸念する点は4つあった。

 第1に、明るい兆しは多々あるものの、本報告書の一貫したテーマは、豊かな世界を実現するために必要な国連の「グローバル目標(旧・持続可能な開発目標〔SDGs〕」を達成する活動は、内容的にもスピード的にも不十分だというものだ。

 CEOたちも、そのギャップを認識している。企業がグローバル目標に重大な貢献をしていると考えるCEOは21%しかいなかった。RWEのロルフ・マーティン・シュミッツCEOは、「残念ながら、口先だけの人があまりにも多い。私たちが本当に必要としているのは、もっと多くの行動だ」と語っている。

 第2に、企業も世界も、気候変動問題に関して十分なことをやっていない。

 CEOの59%が、低炭素技術と再生可能エネルギーを採用していると答えたが、10年以内に二酸化炭素排出量のネット・ゼロを目標に掲げるCEOは44%しかいなかった。また、自社のサプライチェーンの脱炭素化に取り組んでいると答えたCEOは、41%しかいなかった。現在の危機のスケールに対して、実に生ぬるい行動レベルだが、科学に基づく炭素目標を設定している、または設定する計画だと述べたCEOが30%前後だったことは、いっそう残念だ。

 第3に、UNGCの調査報告は、投資家に対する信頼は限定的であることを示した。

 BRがどのような声明を出そうとも、ほとんどの企業は、投資家が持続可能性努力を重視していると感じなければ、積極的な行動は起こさないだろう。最近は投資家コミュニティにも動きが見られるものの、EDFエナジーのシモーヌ・ロッシCEOは、「銀行や投資家は、持続可能性に関して、表向きに言うことと、密室で表明する嫌悪感の間に大きなギャップがある」と語る。脱炭素化努力のモチベーションとして、「株主の圧力」を挙げたCEOが12%しかいなかったのは無理もない。

 第4に、CEOたちは、気候変動対策に集中できない大きな理由として、政治的・経済的な不透明性を挙げた。

 マクロ経済の変動が自社の戦略に決定的な影響を与えるとしたCEOは約65%、持続可能性努力を抑制していると答えたCEOは42%いた。これは、持続可能性の実現努力は、儲かるビジネスを構築するという「本業」からリソースをそらすものだという、長年の暗黙の思い込みを反映している。率直に言って、気候変動について行動を起こすのに、マクロ経済が不安定でない時期を待っていたら、永久に行動を起こさないも同然だ。

 したがってUNGCの研究報告は、総じて、プラスとマイナス両方の要素が混ざっている。それは、企業が実際に活動する現実の環境とよく似ている。一定の進捗はあるが、目標との間には深刻なギャップが存在し、やるべきことが山積している――。

 私たちの対応が遅れていること、そして、この問題が非常に複雑で、もっと行動を起こす必要があることを、リーダーたちが認識しているのは喜ばしい。国連グローバル・コンパクトのリセ・キンゴCEO兼事務局長は、企業経営者たちは「現在の進捗に満足しておらず、みずから業界や同業他社に、対策を強化し、約束を行動に移すよう呼びかけている」と語る。

 ひょっとすると、この報告書で最高の発見は、国連とアクセンチュアが呼びかける第3の行動、すなわち「個人の責任」という視点かもしれない。筆者自身、世界の企業経営者を研究するなかで、企業経営のロジックを実現するには限度があることがわかった。

 CEOたちが新しい経営ビジョンを受け入れるためには、そのビジョンに人間としてコネクトし、自分の仕事が世界にどう位置づけられるかという、個人的なナラティブ(物語)に取り込む必要がある。彼らは「私のレガシーは何か」と自問する必要がある。それは、私たち誰もが自問すべきことでもある。


HBR.org原文:What 1,000 CEOs Really Think About Climate Change and Inequality, September 24, 2019.

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アンドリュー・ウィンストン(Andrew Winston)
環境戦略のコンサルタント、著述家。世界各地の一流企業に、環境保護や社会貢献を実践して利益を生み出す方法を助言している。著書に最新作『ビッグ・ピボット』、ベストセラーとなった共著『グリーン・トゥ・ゴールド』Green Recovery(未訳)がある。ツイッターは@AndrewWinsotn