日本企業における社長の決め方

――形式を整えるだけでは不十分で、結局は人の問題ということですね。

 日本人には、ものごとに当たるに際しての真面目さや誠実さなど、他国にない美徳があります。CEOにふさわしい価値観を持っているという点で、米国の平均的な企業の後継者育成計画と比べて成功していると思います。

 米国の大企業のCEOの30%は、内部からの昇進ではなく、外部から招聘した人です。この事実は、優秀な人材を自社で育成できていないということです。

 約5年前、マイクロソフトは当時のCEOスティーブ・バルマーの後継者を選ぶのに、エゴンゼンダーではないのですが、外部のコンサルティング会社に依頼して、1年半ほどかけてエグゼクティブ・サーチを実施しました。そして、最終候補として挙がったのは、当時フォード・モーターCEOで69歳のアラン・ムラーリーでした。驚きの人選でした。マイクロソフトには数万人もの従業員がいるにもかかわらず、1人も次期後継者に値する人がいないなんて。結局、彼はそのオファーを断り、内部昇進で、サティア・ナデラが後継者となったのは幸いなことでした。

 このように、米国がすべて正しいと思わないほうがいいでしょう。素晴らしいビジネススクールがあり、優秀な人材がそろっていると思われがちですが、決して全ての企業でうまくいっているわけではないのです。

 日本には長い歴史があり、創立100年を数える企業も多くあります。従業員は会社に対するロイヤルティを持っており、社長の内部昇進も根付いています。大手企業でエグゼクティブ・サーチなどを頻繁に実施する必要なく、有利な条件がそろっていると思います。

 ただし、改善しなくてはいけないのは、内部昇進の際に見る要素です。これまでは、勤続年数や年齢が重視されていたと思いますが、先程から申し上げてきたように、コンピテンシー、そしてより重要なのはポテンシャルです。

 コンピテンシーは、その企業ごとに必要とされる内容は異なります。同時に、VUCAの時代は将来が見えないので、必要とされるコンピテンシーは変わります。そこで、環境に合わせて常に成長し続け、学び続けることができるポテンシャルが必要なのです。

――日本の良さを残しつつ、米国的な手法を採り入れた、ハイブリッドな形で社長候補者を選ぶことが肝要ということですね。米国的とは、言い換えれば、第三者的な視点を入れて社長候補者を見つけることだと思いますが、御社でもそういう役割は増えているのでしょうか。

 私たちが、社外取締役や社長の候補を探すお手伝いをする際、第三者的視点の機能を果たせるとしたら、主に2つの点です。(1)客観性に基づいて正しい判断ができる、(2)その正しい判断を伝えることができる、です。

(1)については、外部のコンサルタントだから、客観的に見られますし、候補者を探すプロフェッショナルとして場数を踏んで経験値があります。そのためのベンチマークやツールももっています。社内だけで議論していると閉じた判断になりますが、私たちは、クライアント企業とそれ以外の企業との比較のなかで、選ぶことができるのです。

(2)については、一般的に日本企業の社外取締役が誰に雇用されているかというと、実質的には現在の社長であることが多いようです。米国の社外取締役の雇用主は、取締役会であったり、取締役議長であったりします。議長はCEOがなることが多いので、CEOに雇われているとも言えます。上司ではないとしても、生殺与奪権を握っている社長やCEOに対して、その意向に反するようなことを言えるかどうか、という課題があります。

 社外取締役が社長に雇用されていることと、私たちが社長と契約を結んで候補者を探すことは、意味が全く違います。私たちと社長は上下関係ではありませんし、正しく選定した候補者が社長の意向と違う人で、社長によく思われなかったとしても、私たちの受ける影響は限られます。

 同時に、最終的にはその企業のためになる助言をして、その企業の企業価値が上がることが、私たち自身のなによりのメリットでもあります。社長の意向を重視して正しいことを伝えられない、ということはありません。

――外部に頼らず、社内で選ぶ場合に、有効な仕組みはありますか。

 次世代の社長候補者の選定は、新しい社長が就任したときに始まるというのが理想です。社長は直属の部下で、少なくとも2人は次期社長候補を持っておくべきで、なおかつ、同時にその下の層の育成をしておくことが望ましい。もし人材がいないのなら、下の層で採用をして、つまり、次の次の社長の候補者として採用して、その人たちを育成するべく、ジョブローテーションを施していくべきです。そうすれば、外部に次期社長を求めなくてもすみます。

 外部に人材を求めると、コストが高くつきます。私たちの試算では、5~6%のコスト高になります。また毎回、社長を社外から招いていると社員の士気が下がります。社内には社長を任せられる人材がいなくてクズばかりだと宣言しているようなものだからです。

 確かに社内のさほど優秀でない人よりも、社外の人のほうが適任という場合もありますが、一般には、後継者計画をきちんと立て、実行しておけば、社内に数名の候補者がいる状況をつくることができます。

――なぜ米国では30%もの企業が、外部からCEOを採用しているのでしょうか。

 第1に、隣の芝生は青く見える、ということがあります。外部の人材のほうが優秀に見えるのです。また、外部の優秀な人材を招き入れたというニュースは株主へのアピールにもなります。

 第2に、社外取締役が増えているため、でもあります。彼らは社内の人材をよく知らないため、自分たちの人脈をもとに外部から人を採ってしまうのです。

 第3に、残念なことに、エグゼクティブ・リサーチ・ファームに相談してCEO候補者を探す場合、利益相反が起こることがあります。コンサルティング会社は外部から人を探してきて、クライアント企業にCEO候補として紹介し、その人が採用されると、コンティンジェント・フィーという高い紹介料を獲得できます。そのため、内部の人よりも外部の人を推薦するインセンティブが働いてしまうのです。

 獲得した人の年収の一定額などが支払われる契約、たとえば、給与とボーナスの合計額の1/3がコンサルティング会社に支払われるという契約が結ばれるケースが多いです。より高いフィーを求め、年収が高い男性の候補者が推薦されがちという歪みが生じます。

 ちなみにエゴンゼンダーの場合は固定の手数料で、内部の人でも外部の人でもふさわしい人を推薦、または紹介するという契約です。このリテーナー・フィーという手数料は、社外採用でも内部登用でも変わらないため、不必要に外部の候補者を押し売りすることが起きません。

 基本的には、早い段階から、優秀な内部の若手候補者をできるだけ多く発掘し、キャリアの早期から育成していくことが何よりも大切だと思います。ハイポテンシャルな人材を特定し、その人たちに適切なジョブローテーションで経験を積んでもらい、その能力を引き上げていく、これが、日本企業で継続的に優れた人材が経営者に就いていく最適な仕組みだと思います。

 

クラウディオ・フェルナンデス=アラオス(Claudio Fernández-Aráoz)
エゴンゼンダー シニアアドバイザー、ハーバード・ビジネス・スクール エグゼクティブ・フェロー。スタンフォード大学MBA。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、世界的な人材コンサルティング会社エゴンゼンダーインターナショナルに入社。30年以上にわたり、エグゼクティブ・サーチ・コンサルタントとして世界中で活躍。現在は、同社シニアアドバイザー。