経済環境の変化の激しい今日、日本企業は、社長やCEOをどのように決めればよいのか。次代を担う経営人材をいかに育てればよいのか。30年以上にわたってビジネスリーダーの育成などをコンサルティングしてきたエゴンゼンダーのシニアアドバイザー、クラウディオ・フェルナンデス=アラオス氏が来日したのを機にインタビューした。アラオス氏は、ハーバード・ビジネス・レビューで、「潜在能力を開花させる経営リーダーの育成法」DHBR2018年2月号)や「リーダーの成功と好奇心の関係」DHBR2018年12月号)など多くの関連論文を発表している(聞き手:大坪亮・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長、構成:奥田由意・フリーランスライター、撮影・嶺竜一)


編集部(以下色文字):経営者人材の選抜基準を、どのように考えたらいいのでしょうか。

アラオス(以下略):そもそもリーダーに選ばれる基準は、人類史という長いスパンで見ると、大きく変化して来ています。原始時代にはまずもって体力であり、文明社会に入ってからは知性や経験が評価され、マネジメント理論が発展した現代においては、コンピテンシー、すなわち高い業績を出せる行動特性や能力が重要であったというのがコンセンサスではないでしょうか。

 そして今、私たちエゴンゼンダーが、リーダーの資質として特に重視しているのは、「ポテンシャル(潜在能力)」です。

 VUCAと呼ばれるように、テクノロジー的にも地政学的にも変化要因が大きく、不安定な時代ですので、リーダーに求められるコンピテンシーの内容と水準は、状況によって変化します。そこで、その状況に合わせてコンピテンシーを成長させる能力、すなわちポテンシャルが求められるわけです。

 このポテンシャルは、好奇心、洞察力、胆力、影響力の4つの要素に分けられます。そして、それらの要件を備えた伸びしろが大きな人を見つけたならば、適切な方法で育成しなければなりません。そのときに必要なのは、ストレッチアサインメントとジョブローテーション、ポテンシャルを開花させるような負荷のある仕事を順次経験させることです。これらについては2018年のHBRの2つの論文で詳述しています。

 さらに、ポテンシャルに加えて、誠実さや謙虚さを含めた、正しいモチベーションが必要です。事業への強いコミットメントがあっても、それが利己的な動機によるものではなく、社会的に持続可能な企業活動のため、正しい動機に基づいていなければなりません。

 本人がそうした価値観を持っていることが不可欠です。ビジネスは1人でするものでなければ、人は1人で成長するわけでもありません。ビジネスも人も社会の中にあって、社会や他者と関わり合っているものだからです。

――価値観や正しい動機が重視されるべきなのは過去でも同じだと思うのですが、なぜ今、特に重要なのでしょうか。

 理由は主に3つあります。第1に、今日、人々は、若い人は特にですが、企業の価値観が自分の価値観と合うかどうかや、正しい動機に基づいて働くことを重視するからです。

 30年前、私がコンサルタントを始めた頃、例えば大手タバコ企業は就職先として人気がありました。市場が寡占化していて、高業績で、労働条件が良かったからです。しかし現在では、人の健康に害をなすことに加担していると考えられ、そこで働くことにモチベーションを持てない人が増えているようです。自身の生きる目的や価値観に合うかどうかが、職業選択の重要なポイントなのです。

 第2に、社会が企業にエシカルな(倫理的)価値観を求める度合いが高まっていますが、人は成人した後に倫理性を高めるのが容易ではないので、リーダー候補を選定する段階で、その点も見る必要があるのです。

 ジム・コリンズが『ビジョナリー・カンパニー2』(Good to Great)で、「人はどのように価値観を変えられるか」という質問に、「価値観は個人がすでに固定した形で持っているので変えることは難しい」と答えていますが、そういう面は強いと思います。

 第3の理由として、価値観が重視されるのは、VUCAの時代だからということがあります。変化が少ない時代には、過去の経験則を活かせば、無難に経営ができました。しかし、非連続な変化が起こっているとき、過去の経験則を盲信はできません。

 経験がない状態で大きな判断をしなければならない局面が多くなります。その際に基準になるのは、その人が持つ価値観です。ですから、価値観がしっかりしたもの、正しいものでなければ、経営の方向性がぶれてしまいます。価値観が利己的なものに由来していれば、不祥事につながります。

――そうした観点からすると、多くの日本企業では、経営者人材を見出し、育てるための仕組みが十分ではありません。今日でも社長(CEO)が次の社長(CEO)を指名するという選び方をしている企業が多くあります。透明性や合理性に欠け、グローバル社会においては通用しないという問題意識は高まっています。ポテンシャルや価値観、倫理観などの条件を備えた社長を選ぶためのベストプラクティスはありますか。

 まず、社長候補の価値観のチェックは、それ以前の役職への昇進時に、節目節目で行うのが望ましいです。早期段階でのフィルタリングで、倫理的に問題がある人は除外されるべきです。ゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEO、ジャック・ウェルチは「どんなにハイパフォーマーであっても、倫理観が欠落している人は結局、企業を毀損することになるので経営者にしてはダメだ」と言っています。

 価値観や倫理観をチェックするためにも、現在の潮流である、指名委員会や社外取締役が社長の候補者選びに関与するのはよい方法です。日本でも取締役会の機能を強化したり、その中で社外取締役の数を1/3にしたり、さらに高めていこうとするのはよい傾向だと思います。

 しかし、米国のように社外取締役の数を増やせば事足れり、というわけではありません。行き過ぎは禁物です。なぜなら、社外取締役が多すぎると、当該会社の理念やパーパスがわからない人ばかりになるからです。相当年数その会社の経営に関わっている取締役の役割もまた重要です。

 2002年9月号のハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文"What Makes Great Boards Great"(邦訳「制度で取締役会は改革できない」DHBR2005年10月号掲載)で、筆者のジェフリー・ソネンフェルドが指摘していますが、「ガバナンス(体制)自体はあっても、人がいない」ということは往々にしてあります。