残念ではあるが、人間の脳は、先史時代の「見つめられる恐怖」をパブリックスピーキングに転嫁した。すなわち、人前で話す不安はDNAに組み込まれている。パブリックスピーキングを一種の攻撃と捉えてしまうのだ。

 聴衆を生理的に脅威を感じる捕食者だと決めつけ、それに見合った反応をする。スピーチをしているときの反応は、身体的な危険信号を受信した時の身体反応(短い呼吸、顔の紅潮、震え)に似ている。

 そのため現代人は、人前で話すとき、自分に視線が向けられていると感じると、洞窟暮らしの人間が日にさらされるように、痛烈に露わになったように感じる。そして脳から「攻撃されている」というメッセージを受けているため、自分を守るために必要なことを何でもする。危険のもと――この場合、聴衆――と自分との間に壁をつくって攻撃を避け、危険を和らげようとするのだ。

 ここでいう壁とは、どのようなものか。よくあるのは、スライドに神経を集中させたり、下を向いたり、メモに隠れるようにして話したりすることだ。その間、目の前にいる人々を無視し、聞き手を視界に入れないようにしている。かなり自信のある話し手でさえ、聴衆と距離を持とうとする。これは、人間がそうプログラミングされているというだけのことである。

 幸い、解決法はある。「思いやり」だ。扁桃体を落ち着かせ、体内のパニックボタンを外すカギは、自分自身から意識を逸らすことにある。失敗するのではないか、聞いている人が好感を持ってくれるだろうか、といった自意識を捨て、聞き手の役に立つことに意識を集中させる。

 人を思いやる気持ちが増すほど扁桃体の活動が抑えられることが、研究によってわかっている。人への思いやりや親切心には、闘争・逃走反応を鎮める迷走神経を活性化させる力がある。人に親切にすると、ストレスが緩和され、気分が落ち着く。

 それと同じ原理が、人前で話すときにも当てはまる。思いやりの精神でスピーチに臨むと、攻撃されているという感覚が薄れ、緊張が解け始めるのだ。

 もっとも、実際に行うのは難しい。日頃スピーチの講師をしていると、仕事や日常全般で思いやりのあるクライアントほど、人前で話すのが苦手なように見受けられる。それは、脳にこう言われているからだ。「いまは人に与えている場合じゃない。早く逃げろ!」

 だが、人を思いやる話し手になることは必ずできる。この3つのステップから始めてみよう。