(3)シナジーの実現、買収先グローバル人材の活用

 3つ目は、M&Aを通じて自らの経営のやり方を変えることも厭わない、覚悟あるシナジーの実現と、買収先グローバル人材の活用である。ここで好例と言えるのが、日立製作所の鉄道事業であろう。

 グローバル化を推進するために2015年に伊フィンメッタニカ社傘下の鉄道事業会社アンサルドブレーダを買収した同社の鉄道事業であるが、それに先立つ2014年に同事業の本社機能を日本から欧州に移したことが、こうしたグローバルなM&Aの成功とそれによる海外売上高増の大きな下支えとなっている。

 グローバル市場で勝つことを戦略上の目的とするならば、本社機能が日本にあることの必然性はないことが多い。同社は覚悟を決めて本社機能を欧州に移し、英国人のアリステア・ドーマー氏をトップに据えてイタリアの企業を買収、自社の技術やオペレーションで買収先事業の改善に取り組むとともに、買収先事業の優れたところを真摯に認めて、自らの改善にも役立てていった。結果として、現在の同社鉄道事業の経営陣には、買収したアンサルドブレーダの幹部も名を連ねている。

 同社CFOの西山光秋氏が本件を「実現した中では当社のベストディール」と呼ぶのは、2014年以降売上を数倍に拡大し、利益率も飛躍的に改善したという財務的な成果のみならず、さらなる成長に向けて、グローバルな経営チームそのものも強化した点を評価してのことだろう。

(4)M&A経験の蓄積と組織知化

 最後に4つ目として、M&A経験の蓄積とその組織知化の重要性を挙げたい。やはり国内の同業他社買収(=スケールディール)の場合に比べて、海外でのスコープディールは難易度が高い。まずは土地勘の働く国内、あるいは既に事業進出している国でM&Aの経験を積み、それをその場限りで参集するプロジェクトチームの属人知識にするのではなく、事業開発を専門とするチームに知恵を集積することで、より難易度の高いディールでの成功確率を上げることができる。

 日本電産は、M&Aで成長した日本企業の代表例として良く挙げられるが、同社のM&Aはまさにこうした国内でのM&Aをベースとしてグローバル案件にも挑戦する、というアプローチが奏効している好例であろう。

 一方、商社など比較的M&Aや出資案件の多い企業であっても、実際にはM&Aは各事業部門・営業部門が独自に行っていて、失敗事例の総括がなされず、必ずしも会社全体の組織知になっていないことも多い。

 我々はそうした企業の過去のM&A案件を棚卸し、プロセスに沿ってうまく行ったポイント、失敗ポイントを客観的に総括し、その会社の陥りがちな「癖」を特定、それを踏まえた「M&Aプレイブック」を作成する支援も行っている。単なる資料ではなく、新任管理職研修のカリキュラムに組み込み、中堅社員が必ず学ぶようにするなど、組織知としての普及を図る仕組みとしている。

 また、買収の前に売却で腕を磨き、売り手の視点を身につけることも、経験値を獲得する上では極めて有効である。事業買収巧者が事業売却巧者でもあることは、多くの事例が証明している。

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 最近の日本企業のアウトバウンドM&Aの増加は、グローバル競争への本格参戦に遅れた日本企業が、潤沢な資金を活かしたキャッチアップ策として、「他所に出遅れるな」と焦ったことによるブームの感も否めない。

 今後を考えると、多くの業界で主要プレーヤーの統合が進み、一部のスタートアップ的なプレーヤーを除いて有望な買収先が徐々に減っていく焦燥感の中、新興国企業などの新たな買い手の参戦もあり、アウトバウンドM&Aの難易度は上がらざるを得ないだろう。

 同時に、保護主義の台頭などで世界経済の先行き不透明感が増していることも、海外でのM&Aを難しくしている。

 しかしながら、目下の国内市場の成長性・収益性の低さを鑑みれば、グローバル市場への展開は、多くの企業にとってもはやオプションではなくマストであり、そのためにはアウトバウンドM&Aが避けて通れないアジェンダとなる業界も、これまで以上に増えるだろう。

 先人に学ぶことで経験値を底上げし、冷めた頭で信念をもって、能動的にディールにトライする日本企業が増えることを期待したい。
(了)


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