日本企業によるM&A、とりわけ「アウトバウンドM&A」といわれる、日本企業による海外でのM&Aが空前のブームとなっている。これは一過性の突発的事象ではない。ただこれを、景気の良い話として喜べない問題点がある。海外M&Aの内容の変化を踏まえ、失敗する日本企業に見受けられる3つの共通点を指摘する。


 日本企業によるM&A、とりわけ「アウトバウンドM&A」といわれる、日本企業による海外でのM&Aが過熱している。

 2018年の日本のM&A総投資額(日本企業同士の買収、日本企業による海外企業の買収、海外企業による日本企業の買収、の総和)は過去最大の約2,640億ドルを記録し、そのうちアウトバウンドM&Aは6割を超える約1,680億ドルにのぼった(図1)。これは中国やインドを含むアジア全体のアウトバウンドM&Aの中でみても過半を占め、中国企業による海外企業買収がやや落ち着きを見せる中で、日本企業のM&A市場における存在感を示す年となった(図2)。

 もっとも同年は武田薬品工業によるアイルランドのシャイアー社買収という超大型案件があり、これらの数字を押し上げることになった側面は否めないが、過去5年に視野を広げてみても、アウトバウンドM&Aは日本のM&Aの過半を占めており、「海外M&Aブーム」が単年の突発的事象でないことがわかる。

 リーマン・ショック以降徐々に拡大を見せてきた日本企業の海外M&Aであるが、これを支えるマクロ経済的、社会的背景は、お馴染みの通りであろう。すなわち、国内市場の停滞、歴史的に低い資金調達コスト、海外に比した日本企業の収益性の低さと、それを押し上げようとする株主圧力の高まり、などである。一方で、そうした海外M&Aの中身を、直近5年間(2014~2018年)と、その前の5年間(2009~2013年)で比較すると、4つの大きな変化があることに気づく。

 1つ目は、ディールタイプの変化である(図3)。「スケールディール」と呼ばれる、同業の取り込みによる規模拡大を狙うM&Aよりも、「スコープディール」と呼ばれる、新領域への進出や新技術の獲得を狙ったM&Aが増えている。

 内需型の企業の場合や、あるいは消費財のように本来はグローバルな事業でもグローバルブランドが乏しい日本の企業の場合は、そもそも海外の市場に出るということそのものが新領域への進出であることも多いのだが、B2CからB2Bへ、マスセグメントからプレミアムセグメントへ、売り切り型からソリューション型へ、といった事業ドメインのシフトを狙ったM&Aも増えている。

 また、近年のデジタルソリューションやAI、IoTといった新技術の台頭に伴い、こうした技術を獲得するためのディールが増えていることも、スコープディールの拡大につながっている。

 2つ目は、投資先の地域の変化である(図4)。リーマン・ショック直後の5年間は、日本のアウトバウンドM&Aの3割は新興国に向かっていた。しかし直近5年でみると、新興国向け投資の割合は半減し、85%の投資は欧米先進国に集中している。

 インドや中国、ブラジルなどの新興国向け投資で大きな減損処理案件も出たことで、そうした地域での大型M&Aが敬遠されるようになったこと、また日本企業全体に収益性向上を求める声が強い中で、より収益性の高い欧米先進国の案件が優先されるようになったことが背景にあるように考えられる。

 3つ目は、経営権獲得重視の傾向である(図5)。投資先の株式の半分未満しか獲得しないマイノリティ投資がかつては3割以上を占めていたのに対し、直近では2割以下にまで減少して、投資先株式の過半を握る投資が拡大している。これは前述したような、投資先地域の変化が影響しているだろう。新興国での「青田買い」あるいは「お勉強」的な投資が減り、既に確立した市場で経営権取得を狙った買収が増えている、ということである。

 そして4つ目が、平均投資規模の大型化である(図6)。成熟した市場で経営権取得を狙った買収が増えれば、その規模は自ずと大型化する。そこにかつてない資金調達コストの安さや、成長投資に対する株主からのプレッシャーが加わり、「一世一代の大勝負」のようなディールが増えている。逆に、かつてはみられた「新興国でのお勉強・お付き合い投資」のようなものは少なくとも増えていないというのは果報といってよいだろう。