ビジネススクールにできること

 2007~2008年の金融危機後、筆者は、金融市場とコーポレートガバナンスを教えたり、研究したりするうえでの前提に疑問を持つようになった。私たちビジネススクールや学界の人間は、問題の一部であり、解決策の一部になるべく努力しなければいけないと気づいたのだ。

 まず、公共部門とガバナンス問題の扱い方を見直す必要があった。筆者は長年教え、研究し、擁護してきた経験、そして世界中の大学で見聞きしたイニシアチブに基づき、ビジネススクールが市民マインドのリーダーシップを実践し、推進する方法を数多く発見した。

 ●ビジネスプラクティスがもたらす幅広く長期的な影響について、大局的な思考を促す

 すべての科目で、マネジメントツールを教えるときは、その幅広いインパクトについてもディスカッションをさせるのは一つの方法だろう。たとえば、金融の授業では通常、借入れを増やすことで納税額を減らす方法を教えるが、なぜ税法は株式発行よりも、債券発行を優遇するのかという重要な問いを検討することは、めったにない(ちなみに、この問いに正当な理由は存在しない。ではなぜ、この歪んだ政策が続いているのかという次の問いにつながる)。

 幅広いコンテクストを考える癖をつけないと、未来のリーダーたちは、権力を乱用してでも視野の狭い目標を達成しようとする可能性がある。意識を高めることにより、他者やシステム全体を潜在的に傷つける可能性(たとえそれが些細で目につかなくても)に思いを馳せることにつながるだろう。

 ●よいガバナンスメカニズムの重要性を強調し、無責任な権力行使を積極的に思いとどまらせる

 倫理的規範に頼るだけでは、信頼に足る機構をつくることはできない。ビジネススクールは、「企業が非常に不透明なとき、その不正行為をどうすれば見つけられるか」「政府機関の腐敗をどうすれば防止できるか」「正当な内部告発を励まし保護するためには何ができるか」「適切な説明責任を確保するには取締役、監査役、投資家、政府、そしてメディアはどのような役割を果たすべきなのか」といった問題に取り組む必要がある。

 脱税や会社ぐるみの不正行為や政府の怠慢は、何年も見つからないことがある。最近のセラノスのケースでは、不正確な血液テストの悪影響を阻止するうえで、内部告発者と調査報道が重要な役割を果たしたが、投資家や取締役会、そして政府の対応は非常に遅かった。

 ガバナンスと説明責任を改善すれば、もっと早期に問題を発見し、ステークホルダーが損害を被るのを阻止し、法的コストが生じるのを防ぎ、会社の評判に傷がつくのを回避できる。また、究極的には脱法行為や違法行為、そして権力乱用を抑止することもできるだろう。

 ●リーダーが民主的機構と手続きを支えることを期待する

 政府の役割を認めるなかで、未来のリーダーたちが政策問題に関与するとともに、政府機関が直面する課題や、ルールの策定・実施プロセス、さまざまな機構の役割(メディアを含む)を理解することは重要だ。

 MBA取得課程では、強制仲裁や競業禁止条項の適切性、フィデューシャリー規則、内部告発のルール、反競争的取引慣行といった重要トピックが適切にカバーされることはめったにない。学生たちに大局的な視点を持たせる講義で、これらの問いに取り組ませる(特に政策立案者の視点から見る)と、信頼できる企業や政府を構築するには何が必要か、なぜそれが重要なのかを理解しやすくなることが、筆者の経験からわかっている。

 ●法、政策、メディアといった領域との関わりを奨励する

 ビジネススクールは、ほかの大学院や学部ともっと協力して、学際的な研究や教育、学位取得を奨励すべきだ。他部門との連携がないと、大局的な構図や、企業が活動する社会のコンテクストを理解する妨げになる。

 ●社会的・経済的グループを超えて関与する機会をつくる

 経済がグローバル化するにしたがい、多くのビジネススクールは海外研修の機会を設けたり義務づけたりして、学生たちが外国の企業や政府のリーダーと会う機会をつくってきた。ところが米国の国内社会は二極化が進み、ビジネススクールのコミュニティでも、アイデンティティグループを超えた交流は減っている。こうした分断を超える機会を増やせば、共感と生産的コラボレーションを推進できるだろう。

 ●市民活動を奨励する

 資本主義への信頼を維持するということは、そのルールが全員にとってうまく機能することを意味する。そのためには幅広い参加が必要だ。ビジネススクールのステークホルダー、とりわけ教授陣は、ルールと執行システム(民間部門の参加者が作成したものであろうが、政府が作成したものであろうが)を有効たらしめるうえで、極めて貴重な専門知識と経験を持つ。

 ビジネススクールは、公益にかなう政策問題の研究と関与を奨励すべきだ。

 たとえば、自分の専門分野や、専門家でないと混乱しがちな問題について、政府機関にコメントを提出したり、メディアに寄稿するなどして、問題をわかりやすく示すことができる(もちろん政策的な助言が健全な分析に基づくものになるように、利益相反をきちんとチェックしたり、透明性を確保する必要がある)。学生と卒業生は消費者として、あるいは従業員や知識ある市民として意見を述べて、正しいルールがつくられ、適切に執行されるようにすることができる。

 これらの提案を実行に移し、成功させるには時間がかかるかもしれない。しかし、それらはみな実現可能だ。状況が悪化するのを待つのではなく、あるいは英雄的なCEOを探すのではなく、私たち自身がまず、市民マインドのリーダーを育てることに力を入れようではないか。


HBR.org原文:How Business Schools Can Help Restore Trust in Capitalism, September 3, 2019.

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アナト R. アドマティ(Anat R. Admati)
スタンフォード大学経営大学院ジョージ G. C. パーカー記念講座教授。スタンフォード大学の企業・社会イニシアティブのディレクター。スタンフォード大学経済政策研究所シニアフェロー。経済学者。ビジネス、法律、政策の相互作用に学際的な関心を持ち、官民の両方におけるガバナンスと説明責任の改善を訴えている。