投資判断は既存の資源配分の仕組みから切り離して検討すべき

――改めて、イノベーションを創出するための課題やポイントは何でしょう。

 イノベーションを実現しようとする初期の頃はなかなか「これは確実に儲かる」といった説得力のあるストーリーを描けませんから、自らリスクを取れる経営者の力は重要です。イノベーションを起こそうという個人にとっては、どうやって周りの人々を巻き込んでいくかということが重要で、そのためには構想や夢、志といった経済合理性以外の要素がポイントになります。これはベンチャー企業についても同様です。

 日本企業の多くは稼いだお金を使い切れないでいます。利益を求めて合理性を追求すれば、それは当然なことかもしれません。たとえば、会社のなかで2つの提案が俎上に上がったとします。1つは確実に10%の利益が出るとします。もう1つは、儲かるか儲からないかよくわからない、市場さえ存在するかよくわからないといったときに、どちらに投資をするかは明らかです。

 経済性だけで判断されるとイノベーションは勝てっこない。であれば、既存の資源配分の仕組みから切り離すしかありません。別の基準で投資できるような体制を組織的につくるのです。ちょっとした投資の意思決定に取締役会の承認が必要となると、イノベーションはなかなか難しいですから、最初から仕組みとして分離しておくのです。また小さな新規事業に通常の固定費を載せてしまうと、当然、その負担に耐えられませんから、計算上も別の形を取る必要があるでしょう。

 いま大企業には、優秀な人材がいっぱいいますし、資金力も豊富です。情報もあるし、ブランド力もありますが、これらが活かしきれていないように見受けられます。イノベーションのためには、世のなかにある余剰を革新的な行為にいかに結合させるかということが重要です。かつて、それは大企業の社内で自己完結的に回っていたのですが、いまは回らなくなっています。社内で結合しないのであれば、外にあるものと結合するしかありません。大企業が持っている余剰を、いかに活用できる外部の人に結合させるかもイノベーションの創出には必要です。

 あるエネルギーベンチャーのケースですが、「エネルギーをいかに効率的に使用していくか」という地球規模の課題に挑む志に共感した大手企業が資金を提供しました。それら大手企業が実質的に雇用保障するような形になった結果、優秀なエンジニアを採用できたといいます。リスクの取れない日本人にとっては何らかの形でフルリスクじゃない状況を社会的につくることがあってもいいと思います。

――イノベーションの課題は、人や組織、オープンイノベーションやCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)など多岐にわたりますが、日本企業はどちらかというと、R&Dが効率的にイノベーションに結びついていないとの指摘もあります。

 多くの企業は売上高の一定割合を研究開発費として定常的に投資しています。最近は売上高の伸びに応じて、研究開発費も増加傾向にあります。それでも、新規事業が生まれていないとすれば、結局、いろいろな技術の芽は出てくるけれど、それが最後のステージに行き着いていないということが推察されます。経済合理性の基準がからプロジェクトが途中で打ち切られてしまうのかもしれません。