企業がこれらの原則に従うと
何がもたらされるのか

 これは大きな疑問点だ。「ステークホルダーを最優先する」ことが実際にはいかに複雑かを、次の例から考えてみてほしい。

 J&Jはつい最近、オクラホマ州のオピオイド危機に寄与したとして、罰金5億7200万ドルの支払いを命じられた。たとえJ&Jが控訴審で勝利したとしても、これは、(a)企業が社会でポジティブな役割を果たし、みずからの行動や商品の広範な影響に対して責任を負うことが一段と期待されていること、そして(b)企業は複雑であること(つまり言動が一致しない)を示している。書面上では立派な原則を掲げていても、複数のステークホルダーに尽くすとはどういうことかを、忘れてしまうことがあるのだ。

 もう1つの例を挙げよう。アマゾンの森林火災が拡大しているのは、工業型農業と食肉業界を支援する政策が大きな原因である。いずれも自然資本をマネタイズしたいブラジルの大統領が可能にした。

 こうした問題を阻止するうえで、企業はどのような責任を負うのか。

 おそらくBRの声明のようなものに署名した企業は、放牧地を確保するためにアマゾンを焼き払ったような食肉業者から調達をしないだろう。また、短期的な投資家よりも、ステークホルダーや長期的なニーズを優先する企業は、この種の破壊的な政策と積極的に戦うだろう。だとすれば、BRの声明に署名した企業は、カーボンプライシング(炭素税などの形で温暖化ガスの排出に価格をつけ、排出量に応じた負担を課す制度)を明確に擁護すべきだ。

 BR声明の意味を本当に内面化するためには、この声明に署名した企業の多くが、事業全体を見直す必要があるだろう。現代の世界は化石燃料を原料として発展してきた。だが、もはやそれは生命と共存できない。

 BRの声明に署名した化石燃料会社は、みずからの中核ビジネスに終止符を打つ計画を策定するだろうか(デンマークのエネルギー企業エルステッドは、この10年間それに取り組んできた)。これら企業は、北極やグリーンランドにおける天然資源採掘をやめるだろうか(これらの地域は、そもそも私たちが化石燃料を燃やして、氷を溶かしたために、採掘がしやすくなった)。そんなことは起きそうにない。

 それどころか、署名企業の多くは、表向きはカーボンプライシングを支持すると言いながら、実際には実現の試みを徹底的につぶしてきた。つい最近も、2018年の米中間選挙で、ワシントン州が緩やかな炭素税の導入を問う住民投票を実施したところ、化石燃料業界の既得権益(BR声明署名企業を含む)が莫大な資金を投じてこの努力を潰した。

 これらの企業の経営者の一部は本気で、株主至上主義とは異なる目的を追求し、みずからのレガシーをつくりたいと思っていると、筆者は信じている。だが、「すべてのステークホルダーのために価値を創出すること」を、本当に大切だとは考えていないと思われる企業もあり、この努力を骨抜きにしている。たとえばエクソンモービルは何十年にもわたり、気候科学に疑問を投げかけ、グローバルな行動を遅らせてきた(その残念な話の全容は、パワフルなポッドキャスト『ドリルド(Drilled)』で聴くことができる)。

 BRの声明は、よい出発点になるだろう。企業の目的が議論になるのはいいことであり、それは一部の大物投資家の意向を反映している。しかし私たちは、長期的な価値を重視し、自然資本を守り、人間の開発と平等に投資する、循環的な再生可能エネルギーに基づくビジネスモデルを構築すべく、もっと大きく姿勢を転換する必要がある。それは、BR声明のはるか先のことだ。

 従業員として、顧客として、コミュニティメンバーとして、そして株主として、これらの企業に約束を守らせよう。そして真に長期的な思考を持ち、豊かな世界を実現するために戦うよう、企業に要求しよう。さもないと、それは空っぽのレトリックにすぎなくなってしまう。


HBR.org原文:Is the Business Roundtable Statement Just Empty Rhetoric? August 30, 2019.

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アンドリュー・ウィンストン(Andrew Winston)
環境戦略のコンサルタント、著述家。世界各地の一流企業に、環境保護や社会貢献を実践して利益を生み出す方法を助言している。著書に最新作『ビッグ・ピボット』、ベストセラーとなった共著『グリーン・トゥ・ゴールド』Green Recovery(未訳)がある。ツイッターは@AndrewWinsotn