株主至上主義では
現代の問題を解決できない

 ビジネスリーダーは多くの理由から、社会における企業の役割を見直すプレッシャーにさらされている。

 その第1の理由は、社会規範が変化して、従業員や顧客、さらには投資家からの期待さえも急速に変化していることだ。第2に、たった一人の大口株主にだけ気を配る経営は、人間の健康状態をコレステロール値だけで把握するのと同じくらい無理がある。第3に、資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOら一部の投資家が、会社のパーパス(存在意義)と社会貢献にもっと力を入れるようにと、企業に対する圧力を強めている

 第4に、ひょっとすると最も重要なことに、世界は巨大かつやっかいな課題に直面しており、企業はそれを肌身に感じていることが挙げられる。その課題とは、気候変動や格差拡大(および経営者は従業員の数百倍の報酬を得ている事実の認識)、土壌劣化、生物多様性の喪失などだ。

 こうした課題に対処するためには、体系的な努力と協力が必要である。また、企業がこれまで社会に押しつけてきた「外部性」(公害や二酸化炭素排出など)に価格を付ける必要がある。

 株主ばかりに目を向けた現在のシステムでは、こうしたことには対応できない。利益の最大化を目的に据えた企業は、それ自身では、グローバルに共有された課題に取り組むインセンティブを持たないからだ。

 しかし、大企業の経営陣は、いかに企業目的を見直すプレッシャーにさらされていても、私たちは現代の経済と集団的ウェルビーイングを脅かす最大の問題に取り組むことから、ほど遠い状態にある。私たちが社会の最も差し迫った問題に立ち向かえずにいることは、株主価値(比較的新しい考え方だ)の過大評価を超える問題であり、私たちが抱える本当の問題の一症状と言えるかもしれない。

昔からあった株主至上主義への批判

 元祖コスト削減の鬼であるゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ会長は、2009年、株主価値を企業の中核戦略に据えるのは「世界一愚かな考え」だと切り捨てている。

 当時、ユニリーバのCEOに就任して間もなかったポール・ポールマンも、自分は長期的な視点で経営し、四半期ごとに株主に会うつもりはないと宣言。株を長期保有してくれる投資家に株主基盤をシフトし、2010年代に競合企業を上回る業績を挙げた。

 さらに株主至上主義に対する懐疑的な見方は、ポールマンやウェルチよりも前から存在した。最も有名なのは、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が1943年の「我が信条」で明らかにした、世界に対する企業責任だろう。

 創業者の息子ロバート・ウッド・ジョンソン2世は、J&Jが責任を負う順番を患者・医師・看護師、顧客、ビジネスパートナー、従業員、コミュニティ、環境と天然資源とし、そのすべての最後に「これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受する」べきだとしている。「我が信条」は、ステークホルダーについて考えることは古いアイデアであり、ほとんどの企業の設立理由に一致することを示している(J&Jについてはすぐにまた触れる)。

株主至上主義は問題だが、
本当の問題ではないかもしれない

 経済学者のアルフレッド・ラパポートは、株主価値という概念の生みの親の一人である。しかし、ラパポートは著書Saving Capitalism from Short-Termism(未訳)で、私たちの真の問題は短期主義と、「価値」の捉え方だとする、説得力のある主張を展開している。

 長期的な価値を管理する場合も、基本的に、顧客、従業員、コミュニティに対して責任を負う必要がある。価値を今四半期の利益と定義すると、投資をしなくなる(投資をしたとしても気候変動のような長期リスクを優先しない)。

 現在の経済モデルは、利益のために自然資本の流動資産化を促していると、私は考えている。だが、そのうちどのくらいが投資家、すなわち短期的な利益だけを考えた結果なのか。こうした理由から、BRの声明の最後の決意表明(長期的な価値へのコミット)は、決定的に重要な要素となる可能性がある。