●お金が物を言い、それを聞いてしまう

 メタ分析研究によれば、給与と仕事の満足度とは、ほぼ無相関の関係にある。たとえば、年に1600万円稼ぐ弁護士と、年収350万円の看護師の仕事に対する満足度に差はなかった。

 だが、お金は満足にはつながらないが、動機づけにはなる。人は、特に職に関して、金銭的誘因を重視した決断を非常に多く下している。勤務時間や通勤時間が減るならば、もっと楽しい仕事ができるならば、給料が下がっても構わないと言いつつも、実際にはその選択をせず、給料の高いほうにとどまるケースが多いのだ。

 ●嫌な仕事でも我慢してしまう

 人はおそらく、嫌な人間関係よりも、嫌な仕事のほうが我慢できるだろう。実際、米国人は長期雇用には興味がなく、不安定な立場にも満足するという一般的な見方は嘘で、その反対が正しい。

 仕事やキャリアに関して言えば、「見知らぬ悪魔のほうが、知らぬ悪魔よりまし」ということわざの通りで、意味のない仕事や、嫌な上司を押しつけられても、他を試そうとはなかなか思わない。世界で最も成功している企業の中にも、従業員エンゲージメントスコアの低い企業が広く見られるのは、このためである。

 ●自己認識の不足が賢い選択を妨げている

 最近出版したにも書いたように、一般的に、人は自分自身の才能を評価することがかなり苦手だ。「情熱に従う」のはよいが、結果的にいい仕事ができる保証はなく、それが人の役に立ち、需要が存在するかどうかなど、なおさらわからない。つまり、リスクを負って転職した時のROI(投資収益率)が必ずしも明らかではないのだ。

 最近盛り上がりを見せている起業やスタートアップの動きが、よい例だ。この「起業ポルノ」によって、大勢の若者が「自由の身になって心踊る問題を解決する」という考えに興奮し魅了されている――だが、わずかの成功さえ達成できる見込みは薄い。

 もちろん、そのうちのごく少数は次のアップルやグーグルをつくり、社会に多大な還元をすることになるかもしれないが、そうした成功物語の裏には、その何百万倍もの大失敗が存在する。平均すると、脱サラして独立した人は、結果的に働く時間が増えても収入が減り、社会経済的貢献が減る。多くが、会社勤めを続けていたならばもっと成功し、幸せになっていたかもしれない人たちである。

 ●仕事内容が想像しにくい

 企業は、かなりの時間をかけて、自社の仕事やキャリアを望ましく魅力的なものとして売り込む。ジョブ・ブランディングや企業ブランディングは、人材の争奪戦において欠かせない一面となっている。

 どの企業のウェブサイトを見ても、ダイバーシティやイノベーション、CSR、生涯学習、俊敏な企業文化などをコミットする力強いステートメントが目に付く。そして、どんな小さな仕事にも目を引く肩書きをつけ、そそる仕事のように見せている。「ヘッド・プライオリティゼーション・ニンジャ(優先順位忍者長)」「ポシビリティ(可能性)・ディレクター」「チーフ・ハピネス・オフィサー(最高幸福責任者)」「グローバル・アイデンティティ・エンジニア」などは、ほんの数例にすぎない。

 経歴、能力、業界に関係なく、その仕事に適した人材を見つけることが人事採用における成功である。すなわち応募者は、応募する仕事を正しく理解していなければならない。その仕事に期待することが現実からかけ離れているとしたら、その転職がうまくいくことはそもそも難しいだろう。

 本当に求めている仕事に就くためには、自分は何が得意で、考えている仕事が実際にどういう仕事なのかをよく理解していること、そして報酬の優先度を下げ、他の価値観や動機を満たすことが必要だ。何よりも、少し諦めのいい人になって、嫌な仕事や上司を我慢しないようにしたほうがいい。

 これは重要だから覚えておこう――会社を辞めて後悔する人は、ほんの一握りにすぎない。つまり、人には同じ職場に長くとどまりすぎる傾向があるということだろう。

 ヒポクラテスの有名な言葉がある。「Ars longa, vita brevis.(技術は長く、人生は短い)」。技能の習得には時間がかかる。人生は短い――だから恐れずに、本当に望む道を選んで進もう。


HBR.org原文:Why Are We So Bad at Choosing the Right Job? August 20, 2019.

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トマス・チャモロ・プレミュジック(Tomas Chamorro-Premuzic)
マンパワー・グループのチーフ・タレント・サイエンティスト。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとコロンビア大学の経営心理学教授、およびハーバード大学のアントレプレニュアル・ファイナンス・ラボのアソシエイトも兼務する。近著にWhy Do So Many Incompetent Men Become Leaders? (And How to Fix It)(未訳)がある。ツイッター(@drtcp)やウェブサイトでも発信している。