過去の研究から、人が仕事を辞める理由として次の2つが指摘されている。離職誘発ショックと、職務定着の低さである。

 離職誘発ショックとは、組織に留まるべきかどうかを考え直すような出来事で、組織的なショック(例:幹部の交替、M&Aの告知)の場合もあれば、個人的なショック(例:社外からの仕事のオファー、子どもの誕生)もある。

 職務定着とは、人が組織に深く結びついている状態を指す。仕事やコミュニティで十分な社会的結びつきがない場合や、自分の仕事がみずからの関心・スキル・価値観と合致していないと感じる場合は、職務定着の度合いが低く、離職するリスクが高い。

 我々は、人材情報会社との協働により、潜在的な離職誘発ショック(米国の求人企業のレビューサイト「グラスドア」やアナリストによる評価の変化、株価の変動、ニュース記事、企業に対する規制措置または法的措置など)に関して、一般に公開されている組織のデータの大規模なサンプルを集めた。また、過去に就いた仕事の数、勤続年数と在職期間、スキル、教育、性別、居住地など、職務定着に結びつく個人的要因に関する公の情報も集めた。こうした潜在的な離職の指数を、米国のさまざまな組織や業界で働く50万人超について蓄積した。

 これらの離職要因に関する評価に基づき、我々は機械学習を利用して、一人ひとりを「転職のチャンスを受け入れる可能性が低い」「どちらかといえば可能性が低い」「どちらかといえば可能性が高い」「非常に可能性が高い」のいずれかに分類した。サンプルの一人ひとりに離職傾向指数(TPI:turnover propensity index)スコアを付与し、その後、2つの研究を実施して、このスコアが社外からのオファーへの関心と、離職の可能性をどの程度予測できたかを調査した。

 1つ目の研究では、求人情報に関心を示す度合いについて、TPIがどの程度予測できるか探ろうとした。

 企業で雇われている2000人という少なめのサンプルに対して、メールを送信した。個々人は、我々のアルゴリズムにより、固有のスキルや興味に合致した求人情報を受け取ったときに関心を示す可能性が「低い」「どちらかといえば低い」「どちらかといえば高い」「非常に高い」のいずれかに識別されていた。

 このうち1473人がメールを受信し、161人が開封し、40人がハイパーリンクをクリックした。関心を示す可能性が「非常に高い」とされていた人は、最も可能性が低いとされた人の2倍超の割合でメールの案内を開封した(5.0%対2.4%)。さらに、メールを開封した人の中で、関心を示す可能性が「非常に高い」と見なされていた人は、ハイパーリンクをクリックする可能性が著しく高かった。

 このことは、TPIスコアによって離職リスクの高い従業員を特定できる可能性を示唆している。この所見はまた、社外からのオファーに関心を示すであろう優秀な人材に、企業が戦略的に焦点を絞れることも意味する。なお、すべて公に入手可能なデータを使用している点を忘れないでほしい。

 2つ目の研究では、TPIスコアが実際の離職を予測する能力に着目するため、前述の2000人を除いた50万人超のサンプルを利用した。調査した3ヵ月のあいだで、転職のチャンスに関心を示す可能性が「非常に高い」と識別されていた人は、「低い」とされた人と比較して、仕事を変わる可能性が63%高かった。また、「どちらかといえば高い」とされていた人は、辞める可能性が40%高かった。

 本分野における我々の研究から、次のことが実証された。

 企業は、ビッグデータを利用することで、離職傾向の指数を追跡し、離職リスクが高まっている可能性のある従業員を特定できる。このように積極的な予測を実施することで、経営陣は優秀な人材を維持する可能性を高めるべく、介入できるようになるだろう。企業は自社のデータを使えるため、外部の研究者と比べたとき、独自のTPIを開発するうえでずっと有利である。

 企業は、訴訟や規制措置など、組織的なショックを予期することもできる。また、公に入手可能なデータに加えて、それ以外の離職誘発ショックに関するデータ(勤続年数、新たな教育の資格、子どもの誕生や結婚の知らせなど)にもアクセスできる。もちろん、従業員の個人情報を侵害しないよう注意する必要がある。さらに、職務定着を示す要因(キャリア開発の機会への参加、組織的な改善の取り組み、同僚間の認知を促すプログラムなど)を追跡することもできる。

 データ主導の意思決定にコミットする企業は、離職リスクの適切な指数をていねいに収集・分析することに投資する必要がある。経営陣はそれにより、先手を打ち、離職リスクのある貴重な従業員と面接を通じて関わり、どうすれば彼らを留める確率を高められるかを、より深く理解できるのだ。


HBR.org原文:Better Ways to Predict Who's Going to Quit, August 16, 2019.

■こちらの記事もおすすめします
社員が辞める本当の理由を、あなたは知っていますか?
遠隔勤務者は労働意欲が低く、離職する傾向が高い
ウーバーの過激な採用戦略、加熱する引き抜き合戦はどの業界でも起こりうる

 

ブルックス・ホルトム(Brooks Holtom
ジョージタウン大学経営学教授兼同大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネスの上級アソシエートディーン。彼の研究は、『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』誌、『ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー』誌、『インターナショナル・ジャーナル・オブ・ヒューマン・リソース・マネジメント』誌をはじめとするトップ学術誌に掲載されている。人材維持の方法に関する研究はかねてからその卓越性が認められており、米国経営学会から賞を複数授与されている。多くの組織と密接に仕事をしており、100を上回る組織で幹部のトレーニングを行い、相談に応じている。

デイビッド・アレン(David Allen)
テキサスクリスチャン大学経営学教授兼同大学ニーリー・スクール・オブ・ビジネスのアソシエートディーン。英国ウォーリック・ビジネス・スクールの研究環境卓越教授であり、『ジャーナル・オブ・マネジメント』誌の編集長も務める。組織に出入りする人的資本の流れに関する研究で受賞歴があり、トップ学術誌によく掲載されている。離職に関する研究を現職の経営幹部に向けて説明した著書がある。実践的研究を日常的に実施し、組織からの相談に応じている。