売り手市場やエンジニア不足と騒がれる中、既存の採用手法を一から見直して成果につなげているのが、ソフトバンクである。通信事業の活性化と新規事業の創出の2軸へと、経営戦略が大きく変わる中で、採用責任者の筆者は、「受け身」であった採用戦略を「攻め」に転換した。新卒学生の対象マーケットを広げてみずから地方に出向いたり、インターンの活用を積極的に展開したり、人工知能を通じた採用プロセスを実施したりしてきた。「とにかくやってみる」という姿勢で、前例に囚われず、果敢にPDCAを回し続けてきた新しい採用のあり方を惜しみなく明かす。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年10月号より、1週間の期間限定で抜粋版をお届けする。

変化する経営戦略に対応する

 採用担当の責任者になったばかりの2016年頃、上司の青野史寛(ソフトバンク最高人事責任者兼専務執行役員)から、理想の採用について話を聞いた。筆者は、採用には応募者の母集団を拡大することが重要だと思っていたが、青野は首を振ってこう言った。

「理想は、100人の人材がほしかったら、入社してほしい100人に応募してもらい、全員受かり、入社してもらうことだ」

 採用は一般的に、就職活動の媒体に広告を出したり、大きなイベントに出たりして認知度を上げ、母集団を拡大するのがセオリーだ。応募者数を増やすことで、求める人材を採用できる可能性が高まると考えるからだ。しかしながら、単なる拡大は本気ではない応募者を増やし、選考の負担も増やしてしまう。青野の話から、応募者を単に増やすより、採用人数を応募者数で割った採用率を100%に高めること──つまり、課題は「採用効率」を高めることだと気づいた。

 そのために必要なことは、まず採用の実態を把握することだった。筆者が採用責任者になった時、採用担当者は当然、応募者の母集団や採用アプローチなど、選考過程に関するあらゆる情報を、すべて数字で把握していると思っていた。

「どのサイト経由で、どの大学出身者が応募しているのか」「エンジニアは、どの窓口からの応募が多いのか」「選考プロセスと内定率の関連性は、どうなっているのか」「採用効率の高い施策は何か」。しかしながら、現場の担当者にこれらの情報を尋ねてみても、「おそらく」や「~だと思います」という曖昧な返事ばかりだった。

 たしかにそれで現場は回っていた。だが、数字に基づき実態をつかんでいないのでは、そもそも採用効率を高めることなどできない。そのため、まずはエントリー前から内定までの選考過程を可視化し、すべて数値で測るようにした。それらは、エントリーシート選考から面接への移行率、選考期間、内定受諾率、内定受諾後の辞退率などさまざまだ。その際に大事だったのは仮説を立てて、あらゆる活動を数字に基づき検証することだった。いわゆるPDCAが回るようにした。

 同時に、数値で成果を測れない取り組みは、段階的に縮小した。たとえば、一部の有名大学で行っていた会社説明会や大規模な就職活動イベントへの参加だ。直接顔も見えて、一見効果がありそうな活動だが、その参加者が実際にどうエントリーしたのか、どう内定につながったのかまでは追跡できていなかった。

 採用効率を高めることに加えて、もう一つ筆者が課題と感じたのは、「採用する人材の質」を高めることだった。採用戦略とは、環境が大きく変わる中で見直される「経営戦略」ありきで考えるべきものだ。特に当時のソフトバンクは、通信事業の活性化と新規事業の創出の2軸へと経営方針が大きく変わる中、戦略上必要な人材が足りていなかった。

 具体的には、ゼロからイチを生む新規事業に挑戦できる人材や、人工知能(AI)やブロックチェーンをビジネスに活用できる人材、さらにはIoT(モノのインターネット)プラットフォームやロボットアプリケーションの開発までを行えるエンジニア、通信のネットワークインフラの保守・運用を着実にこなせる人材など多種多様である。人事・採用担当者は、ともすれば前例踏襲をしがちだが、経営戦略の変化に伴い、採用の正解は常に変わっていく。したがって、それまでのやり方を変えなければ、これらの分野の優秀な人材を採用できないことは明らかだった。

 ソフトバンクには新卒採用で毎年、約3万人の応募が集まる。そのほとんどが大手就活支援サイトからのエントリーだ。だが、この学生たちは、もともとソフトバンクに関心のある層だ。仮に求める人材が採用できたとしても、いまのソフトバンクが必要とする優秀な人材が、この母集団の中にいるとは限らない。実際、国内の新卒市場は約45万人で、その中により求める人材がいる可能性は高い。

 そこで、ターゲットを3万人ではなく45万人に定め、ソフトバンクへの関心の有無にかかわらず、いかに優秀な層にリーチすればよいのか考えて、次々と新しい手法を試みた(図表1「採用の母集団」を参照)。さらに、インターンシッププログラムのように効果的な施策だとわかったものは、徹底的に強化した。

 結果、それまでは来てくれなかったような、突き抜けた人材が入るようになった。たとえば、いまやハーバード大学よりも入学が難しいといわれるミネルバ大学[注1]1期生も入社予定だ。彼は米国の数学大会で優秀賞、また中国の言語学オリンピックで最優秀賞を取るような逸材で、ボストンキャリアフォーラムがきっかけで入社を決めてくれた。ほかにも、東京大学の大学院で医学を学んでいた学生や、シンガポール育ちで5カ国語を使いこなす学生が入社に至り、現在それぞれAIエンジニア、データエンジニアとして活躍している。

「採用効率」と「採用する人材の質」を高めるために、前例に囚われずに既存の採用戦略を見直した効果は、対外的な指標にも表れた。調査会社の採用ブランディング調査[注2]において、2年前と比較して順位が100位上がるなど、明らかに採用の力が伸びたと実感している。

 本稿では、ソフトバンクで採用を担当する筆者が、採用効率と採用する人材の質を高めるために、どのような施策を行ったのかについて論じていく[注3]

ソフトバンク流採用
5つのポイント

 ソフトバンクの新卒採用は、大きく「母集団形成」「情報発信」「就労型インターンシップ」「書類選考・面接」「内定者フォロー」という5つのポイントに分けられる。すべてのポイントは、採用効率、採用する人材の質の一方もしくは両方を高めることにつながっている(図表2「ソフトバンクの前例に囚われない採用」を参照)。新卒採用が中心であるが、これは中途採用についても同様のことがいえるだろう。

ポイント(1):母集団形成
自社に関心のない層を引き付ける

 大手就活支援サイトを経由して、毎年ソフトバンクには3万人のエントリーがある。だが、市場全体を見渡せば国内だけで、45万人の就活をする学生がいる。ソフトバンクに関心を持たない42万人の市場を見過ごしていることになり、求める人材にリーチができているとはいえないだろう。

 そこで2016年から始めたのが、地方創生型インターンシップ「TURE─TECH」(ツレテク)である。これは、ITを用いて地方の課題解決を考える、滞在型のインターンシップである。学生と社員とがチームを組み、4泊5日で現地に入り、最終的には自治体の首長に解決策を提案する。頭で考えただけではわからないような、現場の真の課題に向き合い、それをチームで考えていくものだ。

 なぜ地方創生をテーマにしたのかといえば、ソフトバンクには関心がなくても、地方創生の課題解決に挑みたいと考えるような、志の高い学生との接点を持つことを狙ったからだ。正直なところ、うまくいくかはわからなかった。しかし、ふたを開けてみると、初年度だけで約1300人の応募があり、うち選考に通った30人がプログラムに参加した。

 この時、人事担当者に口酸っぱく伝えていたのは、「会社説明はしない」「ソフトバンクに興味があるかどうかは関係ない」「絶対に、『君はソフトバンクに向いているよ』などとは言わない」ということだった。とにかく、面白くて情熱がある有能な学生を集められればよかったからだ。

 幸いにもプログラムはうまく運んだ。地方での新しい出会いに刺激を受け、寝る間を惜しんで議論を重ね、社会課題の解決に向けて、本気でプロジェクトを進める経験は、そうはできまい。それを面白いと感じてくれたのだろう。当初、ソフトバンクに関心のある学生は参加した30人のうち1人だけだったにもかかわらず、最終的に9人が入社に至った。

 ツレテクは現在4年目で、2019年には2000人を超える応募が集まった。ソフトバンクに興味はないが、ぜひ来てもらいたいと思う層をどう探すのか。課題解決型のインターンを行い、リーチを広げて、新しい層を得たのである。

 関心のない層を引き寄せる取り組みは、これだけではない。エンジニアを獲得するために、明確なポジションを設けたインターンを行っている。たとえば、2019年春にはブロックチェーンを活用したソリューション開発やAI・データ活用の導入支援などのポジションごとに、エンジニア限定でインターン参加者を募集した。これであればソフトバンクというよりも、その技術に関心のある層が集まる。実際、500人程度のエンジニアが応募してくれたのだ。

 このような取り組みもあり、2019年4月には約430人の新卒社員を迎えたが、うち約220人がエンジニアだ。さらに2020年4月には、合計約550人、うち新卒エンジニアだけで約350人を迎えることができそうだ。

 さらに、学生団体や学生起業家のサービスも積極的に活用している。たとえば、東京大学の学生が理系研究者のマッチングを促すサービスを開発し、提供している。これを利用し、研究で忙しく就活もままならない理系学生をスカウトしている。このように、学生主体のものも含め、年間10件程度は新しい外部のサービスを取り入れている。そのため、「ソフトバンクは新しいサービスを試しに使ってみてくれる」という評判が立ち、情報や新サービスが舞い込むようになった。

 また、国内45万人市場の枠を超えて、2017年から海外人材の獲得を積極的に展開している。これまでは、米国ボストン、インドなど一部の国・地域が中心だったが、現在はそれらに加え、米国ロサンゼルス、英国ロンドン、シンガポール、韓国、台湾、中国の香港・上海・大連と、それまでターゲットでなかった国に、みずから出向いている。

 こうして、そもそもソフトバンクに興味のなかった層の開拓を行っているのだ。

ポイント(2):情報発信
「学生目線」で常に考える

 就職において学生が求める情報は何か。それは、会社の創業の話でも、一部の社員の武勇伝でもない。実際に働いている社員の「生の声」ではないだろうか。

 人事というのは、えてして会社をきれいに伝えてしまいがちだ。そのイメージと実際の入社後のギャップに悩み、辞めていく若者が多いにもかかわらず、である。

 そこで、2018年に新卒採用向けホームページをリニューアルし、どのような人がどのような働き方をしているのかを発信するようにした。採用シーズンだけでなく、随時、更新している。ウェブデザインについても、社内関係者の意向よりも学生の声を集める形にし、学生の好むようなデザインに仕立てた。

 採用ホームページが社員の姿のわかるメディア、つまりオウンドメディア化したことで、ページビュー(PV)がいっきに伸びた。リニューアル前と比べると255%増だ。さらに、一つの記事から別の記事への誘導もうまくできるようになり、1セッション(訪問)当たりのPVも246%増と大幅にアップしたのだ。

 必要なのは、イメージ動画でかっこいい先輩の姿を伝えることではない。仕事の苦しさも含めた実態を伝えることが、ミスマッチを防ぎ、離職率の低下につながるのである。

 また、リアルな声を伝えるという点で、リクルーターの強化も行っている。現在、若手社員らを中心に350人がリクルーターとして、応募者の話の聞き手となっている。いくら人事担当者が話しても、学生から見れば「うさんくさい」ものだ。やはり、先輩社員の声がリアルであるほどよい。

 ソフトバンクではグローバルな仕事が増えている。また、AIの社会を見据えて、どんどんAI化を進めているが、現時点ではまだまだできていないことのほうが多い。

 そのため、学生には「AI開発環境が他社よりもすごい」「グローバルな仕事ができる」ではなく、「将来そのような環境に身を置ける可能性がある」と伝えるようにしている。学生を学生として見ず、「顧客」としてとらえて考えること。そう徹底するよう部下にも指示している。そのため、当然嘘はつかないようにする。学生目線の情報発信が重要なのだ。

 

これ以降のステップ、(3)就労型インターンシップ、(4)書類選考・面接全文、(5)内定者フォロー、それぞれでどんなアクションを実行しているのか。本稿全文は『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年10月号に掲載されています。

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売り手市場や、エンジニア不足が騒がれる中、既存の方針のままでは思うような採用ができなくなってきている。それゆえ、エージェントやテクノロジーを頼みとする企業も増えており、採用コストは増大する一方である。人的資源が競争力の源泉であることには変わりがない。だが何のための投資なのか、どのような成果を想定しているのか。戦略的観点から、シビアに再考すべき時である。

【特集】戦略採用
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