最初の一歩を踏み出す方法

 このような変更を実践するのは簡単そうに見えるが、多くの企業が、そして従業員自身が苦戦している。その主な理由は、企業と従業員の両方が考え方を変え、「理想的な従業員」を再定義する必要があるからである。これはフレックスタイム制度や研修の回数とは関係ない。

 今日、働き手の多くは本能的に、長年の自分の解釈による「幸せな」ワーカホリックとしてのアイデンティティを守ろうとしている。よりバランスの取れたプロフェッショナルという、新しいアイデンティティへの恐怖と向き合うのを避けようとしているのである。

 この恐怖は、仕事をしていないときに何をすればよいかわからないことから生じている。研究者によれば、我々は勤務時間をどう使うかばかりを考え、自由時間をどう使うかを考えてこなかったため、自由時間をエネルギーの無駄と考えがちだ。だが実際には、その反対であることを示すデータがある。

 別の研究によれば、現代の働きすぎの文化は、不安を抱えた人々が構成する組織から生じたものだ。みずからの価値や貢献度、および業績を測るために、いまだに1週間の勤務時間といった客観的データが必要だと思っている人々である。

 ワーク・ライフ・バランスを達成するための本当の第一歩は、個人レベルから始める必要がある。

 従業員として、あるいはリーダーとして重要なのは、プロフェッショナルとしてのアイデンティティの幅を広げ、家族や地域社会のための余力を残し、仕事以外の活動に意義を見出せるようになることである。自分の余暇を大切にするようになれば、職場にいる自分と職場の外にいる自分とのあいだにバランスを見出し、区別することが容易になる。

 自由時間は休養や充電のための時間であり、新しいスキルや興味を育み、最終的には仕事にも役立つことになるのだと、考え方を変える必要がある。いったんこの変化を起こしたら、導入したフレックスタイム制や研修やERGが実際に、狙い通りの効果をもたらすだろう。


HBR.org原文:Better Work-Life Balance Starts with Managers, August 09, 2019.

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マルチェロ・ルッソ(Marcello Russo)
イタリアにあるボローニャ大学の組織行動・人的資源管理の助教授。ボローニャ・ビジネス・スクールの人的資源管理と組織の修士コースの共同ディレクター。ワーク・ライフ・バランスの専門家で、個人がワーク・ライフ・バランスの理想を達成するために、どのような個々の戦略や組織的要素が役立つかに焦点を絞る。

ガブリエレ・モランディン(Gabriele Morandin)
ボローニャ大学経営学部の組織行動学の准教授。ボローニャ・ビジネス・スクール副学部長。職場の内外で長続きする人間関係と、それらが組織の中で奏功する条件について焦点を絞って研究する。