筆者らがHBRの論文"Digital Doesn't Have to Be Disruptive"(「デジタルは破壊的である必要はない」)で指摘したように、デジタルトランスフォーメーションでは、ビジネスを大々的に見直すことよりも、顧客へのサービス向上のためにデジタルツールをどう使うかを学ぶことが、重きを占める場合が多い。

 顧客のニーズに応え、データを活用するためには、サイロ(縦割りの壁)の打破を含め、社内の組織再編が求められるかもしれない。その場合も組織改革とリーダーシップが、デジタルと同等に重要となる。

 デジタルの専門家は、既存事業を取り巻く制約を受けずに、デジタル事業をゼロから生み出す方法を知っているのだろう。しかし、会社の実際の環境に置かれると、事業を理解していないという単純な理由で、しばしば失敗する。

 その失敗は往々にして、早い段階で始まる。事業がどう回っているのか、自社のリーダーと顧客の本当のニーズは何か――専門家がこれらについて慎重に耳を傾けないまま、会社の大々的な変革について自身のビジョンを喧伝し始めると、転落の始まりだ。

 その次にはたいてい、専門家が組織全体の遅さと無気力を激しく批判する時期が来る。結果的に、デジタル部門は組織から切り離されて独立し、チームは自分たちが思い描く通りのものを生み出す自由を手にする。

 だが結局、彼らは組織の中心からあまりに隔絶しているため、成功できずに終わる。筆者らの検証事例において、デジタルの専門家を選んだ企業はほぼすべて、この道をたどっているのだ。

 対照的に、デジタルの経験に乏しい社内人材がデジタルトランスフォーメーションのトップに起用された場合、成功率は(筆者らが検証した50事例のうち)80%にも及んでいる。なぜだろうか。デジタルトランスフォーメーションとは突き詰めれば、テクノロジーの変革と同じだけ組織の変革も意味するからである。

 学習意欲のある社内人材の有利な点は、事業のメカニズムを理解していること、取り組みの遂行を可能にする人間関係を築いていること、そして最も重要な点として、自身が何を知らないかを知っていることだ。さらに、どこで助けが必要なのかも心得ている。つまり賢い社内人材は、デジタルの熟練者らをチームに雇い入れたうえで、「デジタルを事業にどう役立てるか」に関する自身の理解にもとづいて、チームを成功に導くのである。

 本稿を締めくくる事例として、eコマースの販路立ち上げに挑戦した某大手小売企業の苦労について考えてみよう。