●仕事で示す

 ただ「ノー」と言うだけではだめだ。論理とデータを示して、判断の論拠を伝えよう。何より、あなたがその結論に至った価値観を伝えること。さもなければ、人は自分の不安や先入観によって、残された空白部分を満たそうとする。

 カーラの例であれば、「私はスタッフを解雇し、きちんと活動を停止すべきだと思います」と言うだけではだめである。人は、あなたが「どう」考えるかということより、「なぜ」そう考えるかに関心がある。最初に結論から入ると、あなたがそこにたどり着くまでの過程を想像でつくり上げてしまうのだ。

 カーラが結論だけを述べたなら、カーラが一部のエグゼクティブに対して何か含むところがあるのだと考えてしまう。あるいは、NPOのミッションを本気で大切にしていなかった、次の新しい事業に集中する時間がほしくてしかたがないのだとか憶測するかもしれない。

 詮索の余地を残してはいけない。データを示し、なぜその見解にたどりついたかを伝えるべきだ。「この半年、将来の戦略として5つのアイディアを検討してきました。でも、どれも私たちのようなNPOにとって適切な戦略ではないということで意見が一致しています。この期間に300万ドルの運営費が使われました。組織の存続を正当化する方法を探すために、これ以上、大切な寄付金を使うのはよいとは思えません」

 ●価値観のトレードオフを認める

 あなたが妥協する価値観への共感を伝えよう。単純に白か黒か、正しいか正しくないかで決められるものはほとんどない。価値観にトレードオフはつきものだ。他の人たちをその結論に導いた尊い価値観に敬意を表そう。

 たとえば、先のカーラの発言は、NPOを継続する理由を模索している人への中傷と誤解されるかもしれない。不要な攻撃を受けないために、「私の結論はそうですが、チームを解散することには胸が痛みます。このチームを継続して、さらに有益なことをすれば、一番世界に貢献できると思うのはもっともなことです。ただ私としては、目的が見つからないのに組織を継続する理由が見出せないのです」と、すぐに付け加えるべきだ。

 ●自信を持って、しかし控えめに

 決然とした態度は大切だが、度を越してはいけない。「ここから引き出せる合理的な結論は~しかありません」とか「~が正解です」といった断定的な言い方をすると、相手を説得するよりも遠ざけてしまう。

 あなたが熟慮したうえで結論にたどりついたことを示そう。「~という結論に至りました」とか「私が思うところは~」という言い方なら、決意も謙虚さも表れて、無用な対立を招かずに済む。

 ●ノーと言う許可をとる

 権威ある立場の人、特に否定されることを敬意がないことだと取り違えそうな人にノーと言うときは、先に許可をとっておくといいだろう。そうすれば、相手の権威を尊重しながら、自分に誠実でいられる。

 たとえば、「ボス、私が新しいプロジェクトを引き受けることをお求めですが、あまりよい考えではないように思えます。理由をお話ししたいのですが、お聞きになりたくなければ、このまま引き受けてベストを尽くします。どういたしましょうか」と言う。

 たいていの場合、上司は話を聞かなければならないと思うだろう。もしあなたの懸念に耳を傾けることを拒むなら、そういう環境で人生の大部分を過ごしたいかどうかを判断する、よい機会だ。

 最終的に、カーラのNPOは解散した。それは辛い決断であり、一部の忠実なスタッフを深く失望させたし、激しく追及する関係者もいた。だがカーラは不要な攻撃を生むことなく、最善を尽くして自分の見解を伝えることができた。

 彼女の思慮深さと共感は功を奏した。そして、この体験での決断は、彼女が将来の無数のジレンマにどう対処する人物であるかを決めた。ノーと言うことは、私たちが将来どのような人物になるのかを決定づけるのに、不可欠なプロセスなのである。


HBR.org原文:How to Say "No" at Work Without Making Enemies, August 05, 2019

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ジョゼフ・グレニー(Joseph Grenny)
ビジネス・パフォーマンスについて優れた論評で知られる著者、社会科学者。基調講演者としても活躍。著書は『ニューヨーク・タイムズ』紙で4回ベストセラー入りし、28言語に翻訳され、36ヵ国で出版されており、フォーチュン500企業の300社で成果を上げている。革新的な企業研修とリーダーシップ開発で知られるバイタルスマーツ(VitalSmarts)の共同創設者でもある。