教訓4:失職に対する従業員の恐れを認識する

 デジタルトランスフォーメーションによって職を失うかもしれないと考える従業員は、意識的または無意識のうちに、変化に抵抗する可能性がある。その結果、デジタルトランスフォーメーションの成果が上がらないという事態になれば、経営陣は最終的に取り組みを廃止し、従業員は職を失わずに済む(もしくはそのように抵抗派は考える)。

 リーダーはこのような恐れを認識し、デジタルトランスフォーメーションのプロセスは、従業員が未来の市場に適応できるように専門知識をアップグレードする機会なのだ、と強調することが不可欠である。

 執筆陣の一人(ベナム)は、デジタルトランスフォーメーションを進める複数の組織で2万人以上の従業員に指導・助言を提供してきた(本稿に出てくる組織のコンサルティングも実施)。その際に頻繁に遭遇したのは、最初から取り組み全体に懐疑的な参加者である。

 そのような人々に対応するために、彼は「インサイド・アウト」(個々人の内在的な能力で外に貢献する)プロセスを開発した。まず取り組みの参加者全員に、自分にしかできない組織への貢献とは何かを考えさせる。その後、その強みを、デジタルトランスフォーメーションのプロセスの構成要素に結びつけてもらう。そして、もし可能であれば、当人にその部分の担当者として主導させるのだ。

 これにより従業員は、デジタルトランスフォーメーションをどのように展開させるかを、自分たちでコントロールできるようになる。そして、自分がすでに得意なことを、さらにうまくこなせるようになるための手段が新たなテクノロジーなのだと見なすようになる。

 執筆陣の一人(バーノン・アービン)が勤務するセンチュリーリンクでは、営業チームが生産性を上げるためにAI(人工知能)の導入を検討中だったが、どのようにAIを使うべきかは決まっていなかった。

 最終的にチームは、各営業担当者の仕事を最適化できるようにAIツールをカスタマイズした。週ごとに、どの顧客に、いつ電話をして、何を言えばいいかをAIに提案してもらうのだ。

 このツールにはゲーミフィケーションの要素も含まれ、セールスのプロセスをいっそう面白くした。このプロセスを組織の内側で見てきたアービンは、おかげでセールスがより楽しいものとなり、それが顧客満足度の上昇と売上げの10%増加につながるという成果を確認している。

 教訓5:シリコンバレーのスタートアップの社風を持ち込む

 シリコンバレーのスタートアップは、迅速な意思決定、ラピッド・プロトタイピング(素早い試作)、フラットな組織構造で知られる。

 デジタルトランスフォーメーションのプロセスは本質的に、不確実なものだ。したがって変更は暫定的に行い、その後に修正していく必要がある。決断は素早くすべきであり、組織内のすべてのグループから担当者を集める必要もある。

 このため、伝統的なヒエラルキーは邪魔になる。最良の手段は、デジタルトランスフォーメーションの担当チームを組織全体からいくぶん独立させ、フラットなチーム構造にすることである。

 こうしたスピードと試作の必要性は、他の変革マネジメントの取り組みよりも顕著である。なぜなら、多くのデジタル技術はカスタマイズ可能だからだ。

 リーダーはどのベンダーのどのアプリを使うか、新しいテクノロジーへの転換によってどの事業領域が最も恩恵を受けるか、移行を段階的に実施すべきかどうか、等々を決断しなければならない。最善策を選択するには通常、相互依存的な部分で広範囲に及ぶ実験をする必要がある。一つひとつの決定事項がいくつもの管理階層を通らなければ進まないようでは、間違いの発見と修正を素早く行うことはできない。

 また、デジタル技術によっては、事業のかなりの部分が新システムに移行した後で初めて恩恵をもたらすものもある。

 たとえば、世界中の顧客の需要を集計すべく設計されたクラウドコンピューティングシステムは、さまざまな国にある店すべてが同じタイプのデータを定期的に集めるようになってから初めて、有用な分析結果を導き出せる。これを行うには、各地域の既存の組織プロセスにおける相違点を統一する必要もある。新たなテクノロジーの使い方に関する詳細が、主にある特定国の従業員によって考案された場合、他国ではうまく機能しないという可能性が見落とされるかもしれない。

 ベナムは利豊を支援するなかで、6つの部門横断チームの立ち上げを手伝った。各チームは、香港、中国本土、英国、ドイツ、米国の異なるオフィスの従業員で構成され、チームごとにデジタルトランスフォーメーションの異なる段階を主導した。フラットな構成のチームだったので、メンバーはCFOのエド・ラムや事業部長らに対して素早く提案でき、彼らの意見をただちに聞くことができた。

 おかげで、画期的なデータ構造やアナリティクス、ロボティックプロセスを最良の形で統合する方法について、チームは新たな案を試すことができた。さらに、他国のオフィスや異なる職能の従業員が新しい提案を検証したので、チームは導入時に起こる問題を予想でき、新たなテクノロジーが組織全体に導入される前に、問題に対処できたのである。

 ここまで挙げてきた組織でデジタルトランスフォーメーションが成功したのは、リーダーたちが基本に立ち戻ったからである。つまり彼らは、どのデジタルツールをどのように使うかを決定する前に、従業員の意識、そして組織の文化とプロセスを変えることに注力したのだ。従業員が組織の未来として思い描いた展望が、テクノロジーを導いたのであって、その逆ではない。


HBR.org原文:Digital Transformation Is Not About Technology, March 13, 2019.

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べナム・タブリージ(Behnam Tabrizi)
スタンフォード大学の経営科学・工学部とエグゼクティブ・プログラムで、変革のためのリーダーシップを20年以上教えている。組織・経営陣の変革の第一人者。ラピッド・トランスフォーメーションのマネージング・ディレクター。5冊の著書があり、『90日変革モデル』(翔泳社)は企業向けに、The Inside-Out Effect(未訳)はリーダーに向けて書かれている。ツイッターアカウントは@TabriziBehnam

エド・ラム(Ed Lam)
利豊(Li & Fung)のCFO。

カーク・ジラード(Kirk Girard)
カリフォルニア州サンタクララ郡の開発計画課の元課長。

バーノン・アービン(Vernon Irvin)
センチュリーリンクの政府・教育・中小企業部門のプレジデント。