教訓1:何かに投資する前に、自組織の事業戦略を明確にする

 デジタル技術を活用して組織の業績を上げようと目指すリーダーは、特定のツールを想定していることが多い。たとえば、「うちの組織には機械学習の戦略が必要だ」という具合だ。だがデジタルトランスフォーメーションは、より幅広い事業戦略によって導くべきである。

 香港の大手商社、利豊(リー・アンド・フォン。本稿執筆者の一人が勤務)のリーダーは、モバイルアプリと実店舗が同じくらい重要な市場でサービスを提供するための、3ヵ年戦略を立てた。注力の焦点として選んだのは、スピード、イノベーション、デジタル化である。具体的には、生産のリードタイムを減らし、市場投入のスピードを速め、グローバルサプライチェーンでのデータ活用を向上させることを目指した。

 明確な目標を定めた後、利豊は、どのデジタルツールを導入するかを決定した。

 市場投入のスピードを例に挙げると、バーチャルデザインの技術を取り入れたおかげで、デザインからサンプルをつくるまでの時間を50%短縮した。さらに、サプライヤーに生産効率を上げてもらうために、リアルタイムデータ追跡管理システムの導入を支援。そして、顧客やベンダーからのデータを統合するデジタルプラットフォーム「トータル・ソーシング」を開発した。財務部も似たようなアプローチを取って、月次決算にかかる時間を最終的に30%以上減らし、運転資本の効率を2億ドル分向上させた。

「スピード」や「イノベーション」をもたらしてくれる、単独のテクノロジーなど存在しない。組織にとっての複数ツールの最善の組み合わせは、どんなビジョンを持っているかによって千差万別のはずである。

 教訓2:組織内の人材を活用する

 変革(デジタルであれ、他の分野であれ)を追求する組織は、外部から大勢のコンサルタントを頻繁に連れてくるものだが、彼らは「ベスト・プラクティス」と称して画一的な解決策を講じる傾向にある。

 我々がそれぞれの組織の変革に取り組んだ際のアプローチは、コンサルタントではなく組織内の人材に頼ることだった。つまり、日々の業務で何がうまく機能しており、何が機能していないかを知り尽くしているスタッフである。

 カリフォルニア州サンタクララ郡(本稿執筆者の一人のカーク・ジラードが勤務)が、よい例として挙げられる。

 郡の計画開発課は、効率と顧客体験の向上を目指して、業務の流れを抜本的に見直していた。当初は外部コンサルタントが、過去に他の自治体で携わったプロジェクトをもとに、許認可プロセスに関する提案をしていた。彼らは、分散化のアプローチを取ることが多い。

 しかし、顧客と接している職員は、住民とのやり取りの経験から、より統合化したプロセスのほうが歓迎されることを知っていた。そこで、ジラードと彼のチームは業務の流れを再設計しながら、提案されたツールやプロセス、図表、中核ソフトウェアの重要な部分を大幅に修正した。その結果、許認可にかかる時間が33%短縮された。

 新しいテクノロジーが組織の生産性向上に失敗する理由は往々にして、そのテクノロジーに根本的な欠点があるからではなく、内部者の詳しい知識が見逃されているからである。

 教訓3:外側からの視点にもとづいて顧客体験を構築する

 デジタルトランスフォーメーションの目的が、顧客満足度および顧客との親近感の向上である場合には、何らかの取り組みを始める前にまず、顧客から詳細な意見を得て分析する段階を経るべきである。

 サンタクララ郡の開発計画課の職員は90人以上の顧客と個々に面談し、課の長所と欠点を一人ひとりに述べてもらった。さらに、フォーカスグループへのインタビューを実施し、さまざまな利害関係者――不動産仲介業者、土地開発業者、建設業者、農業関係者、スタンフォード大学のような地元の重要機関など――にニーズを訊ね、優先順位を示してもらい、課の仕事ぶりを採点してもらった。

 開発計画課はその後、それらの意見を変革に取り入れた。

 許認可プロセスの透明性を上げてほしいという顧客からの要請に対応すべく、プロセスを段階ごとに分け、顧客用のポータルに変更を加えた。顧客は現在、自分の申請が一つの段階を通過して次の段階に入るたびに、進捗具合を追跡できる。

 処理時間を短縮するために、滞っている申請をスタッフ用ソフトウェアが自動的に認識できるよう設定した。個々の顧客に適したサービスを提供できるように、許認可センターの職員に対し、許認可業務の流れに関するダッシュボード(重要データをまとめて表示するツール)をコントロールできる権限を与えた。

 リーダーはえてして、ある特定のツールやアプリを導入すれば、それだけで顧客満足度が上がると期待しがちだ。しかし開発計画課の経験は、次のことを示している。

 顧客に最高の満足を感じてもらうための最善の方法はしばしば、サービスのサイクル内のさまざまな部分で、諸々のツールに小さな変更を加えることなのだ。どこを、どのように変更するかを知るための唯一の方法は、顧客から幅広く詳細な意見を得ることである。