AIの限界を知ったうえで統合知能の研究を究めよ

――AIの活用や社会実装に向けて、大きな課題となっているのは何ですか。

 AIをイメージレベルで考えて留まってしまっていることです。実際に動かしてみると、限界があることがわかるのに、それを知らないままシンギュラリティといった極論がまかり通っていることです。最も身近なAIであるAIスピーカーを使って試してみるといいです。人と会話をすることで、たしかにかしこくなっていきますが、「Why(何故)」と言うとだいたい答えられません。

 データから表層的な関係を見出して、そのまま伝えることはできますから、一見、会話は成り立っているように見えますが、「さっきこう言ったけれど、その理由は何?」と言ったとたんに一切答えられなくなります。「What」「When」「Who」「Where」の4つはOKだけれど、「Why」と「How」には答えられない。そこが認識されていません。

 もっとも、「Why」についても、そう遠くない日にAIが答えられるようになるでしょう。米国では、ディベートチャンピオンを打ち負かすようなインタラクティブAIの開発も進んでいます。この技術が進展すれば、人とAIが議論することで、お互い単独だったら出てこないような新しいアイデアを創出することも可能になり、国のGDPにも大きく影響を与えることになるでしょう。

――AIの限界を知ったうえで、国や大学の研究機関、企業の研究開発部門はどうすべきでしょう。

 国内には、トランスディシプリンの研究が圧倒的に少ないと思います。いろいろな分野をつなげて、トータルなシステムをつくること。統合知能のAI研究がもっと盛んになってほしいし、ヒューマンセントリックAI、人と連携するAIの分野にもっといろいろな人が入ってきてほしいという思いがあります。

 PRINTEPSの研究開発で論文を投稿しても、「組み合わせただけ」だという評価を下されることがあります。それを組み合わせることがいかに難しいのかという価値観が国内にはあまりありません。そういう風潮を少しでも変えていけたらとも考えています。そうした意見は、スタートアップの人たちと話していると、ものすごく共感されるのですが、ハードウエア重視の大企業には、なかなか伝わらないところがあります。

――米国や中国と伍していくためにも、ヒューマンセントリックAIの分野を究めていく必要がありそうですね。

 最近は、AIの国際会議に参加すると、参加者の半分ぐらいは中国人です。懇親会でしゃべっていても、英語が聞こえてきません。昨年の人工知能国際会議はスウェーデンで開催されましたが、休憩時間に聞こえてくる言語は中国語が多い状況です。これは脅威です。

 ヒューマンセントリックAIの分野は、これからのAI研究で、欧州も関心が高いので、日欧共同で研究を進めていくのがいいと思います。さらに、ITの専門家でなくとも簡単に活用できるエンドユーザー向けAIを開発していくことで、労働力人口の減少も克服しながら、持続的な経済成長を実現することを期待しています。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)