AIは、業界のコンバージェンスを引き起こし、
究極のジャストインタイムを実現する

――経営者をはじめとする意思決定者に必要なのは何だと思いますか?

保科 「失敗は恐れるな」と言いたいですね。むしろ「失敗を推奨しろ」でしょうか。失敗を推奨してみて初めてそこでわかることがありますし、人間も機会も失敗データから学習できるし、進化する。だから、むしろ失敗はどんどんしていけ、と。

牧岡 最近のビジネス誌の記事に、ソニー前会長平井一夫さんが社長就任時に、今後の経営のかじ取りの方向性を考えるにあたってソニーの設立趣意書を熟読されたと書かれていました。何をする会社になるのかを考えぬいたと。自社の現状の立ち位置から将来を考えることはもちろん容易ではありませんが、設立の原点にまで立ち戻って将来を考えることには多大なエネルギーが必要となります。ですから、経営者にとっては「コンフォートゾーン」の外に常に自分を置き続ける不断の努力が今ほど重要な時代はないということだと思います。

 もう一つ、従業員のフルポテンシャルに対して、経営者は「うちの社員にはそこまではできないだろう」といった諦めともいえる間違った感覚を持っていることがあります。それが自社の変革の大きな足かせになってしまっているようにも思えます。

山形 現状の制約は取りうる経営オプションの幅を狭めますが、これは時に意思決定を楽にする側面があります。この心地よい制約をすべて外し、その状況下で本当に自分たちがすべきことは何なのか、を問うことが重要だと思います。

保科 やらせてみなければ成長しません。できるかできないかよりも、やってみるというのが重要なのではないかと思います。

牧岡 もしかしたら、AIがコンフォートゾーンにいる経営者が変わりうる一つの要因となるかもしれません。従来、マーケティングでも、生産計画でもそうですが、業界や会社が違えば、機能の名称は同じでも概念は違うとされていました。たとえば、B2Cの化粧品会社のマーケティングとB2Bの素材メーカーのマーケティングでは、顧客も販促活動もまったく異なります。

 ところが、インテリジェント・オペレーションによって、それら機能をAIが処理するということで、汎用化が進みます。するとAIが学習するデータが増えて、AIがより強力になる。その結果、業界固有の機能がなくなり、共有化が進み、業界のコンバージェンスが起きるのです。そうなると、旧来の産業統計上の区分の中で競合を見ていた世界は完全に壊れる。そこで初めて「コンフォートゾーンの中で静観している場合ではない」ということが起きるかもしれません。

保科 まさに我々はそこを横串で取り組んでいます。需要予測で言えば、同じ業界の短期需要予測と長期需要予測より、違う業界の短期のアルゴリズム、長期のアルゴリズム同士のほうが、共通点が多いこともあります。もちろん、食べ物でしたら短い消費期限がありますし、ファッションアイテムでしたらトレンドに敏感に反応します。薬でしたら季節性も反映しなければなりません。ところが、取り扱う商品がまったく違うにもかかわらず、アルゴリズムは共通であることがあるのです。

牧岡 ある意味、生産計画から原材料、末端の需要に応じて、すべてが究極のジャストインタイム。いま、私と保科がお話ししたことは、こういうものを特定業界向けにカスタマイズするのではなく、業界横断で提供しようということなのです。

――自社だけではなくて、競合他社も、他の業界の会社も1つのプラットフォーム上でできるということでしょうか?

保科 そうです。そのときは特定の会社向け需要予測だけではなく、随時リアルタイムで入ってくる情報も取り込みつつ、サプライチェーン全体を、上流から下流までカバーする形で、自動化、最適化、高度化していきます。これが、アクセンチュアが提唱する、インテリジェント・オペレーションの一分野としての“AI Powered SCM”です。

牧岡 インテリジェント・オペレーションは、新興のGAFA的なグローバル企業だけでなく、実は長い歴史を持つグローバル企業のいくつかにおいても導入されています。非コア業務のインテリジェント・オペレーション化はBPOに任せつつて、自分たちで主体的にインテリジェント・オペレーション化を考えるべき領域は何か、DX時代の成長領域は何か、常に追求し続けているのです。

写真左から、牧岡宏、山形昌裕、伊佐治光男、保科学世

 

「Round-table Talks:デジタル時代のワイズ・ピボット」関連記事
【第1回】
 プロフィットプールは予測するものではなく能動的に創成できるものになった

【第2回】
 中核事業の持続性を高めながら、競争優位を賢く転換する