ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、アナリティクス、AIといったデジタルテクノロジーとゼロベースの業務改革を組み合わせることで既存事業のコスト効率は90%高めることができる。既存事業の効率化と高付加価値化によって創出された膨大な経営資源(リソース)を新たな成長領域に振り向け、DX時代に適した新たなコア事業を創造する「ワイズ・ピボット」の本質とはどのようなものだろうか。

フロント業務も含め、効率化と高付加価値化は両輪
日々の現場業務こそ高付加価値化すべき

牧岡 宏
アクセンチュア 常務執行役員
戦略コンサルティング本部 統括本部長
シニア・マネジング・ディレクター

丸紅、ベイン&カンパニーを経て2014年にアクセンチュアに参画。全社成長戦略、組織・人材戦略、M&A戦略等の領域において、幅広い業界のコンサルティングを行いながら、同社戦略部門を統括している。「サーキュラー・エコノミー:デジタル時代の成長戦略」(日本経済新聞出版社)監訳。その他寄稿等多数。

――ここまで、デジタルテクノロジーによって経営の自由度が従来よりも大きくなっていることに経営者は気づいていないのではないかというお話でした。そうした観点に立った一つの例として言えば経営者の多くがバックオフィスは効率化できるけれども、営業やマーケティングの効率化はできないと思い込んでいるような気がします。

牧岡 ワイズ・ピボットの基本的なフレームは、図の1~3の「既存事業の効率化」「既存事業の高付加価値化」「新規事業のスケールアップ」の3つをうまくマネージし、転換させていくことです。従来の考え方からすると既存事業の「効率化」と「高付加価値化」は矛盾するように見えるかもしれませんが、ワイズ・ピボットではこれが両立します。

 対象とする業務についても、ご指摘の通り、経営者の多くの方が経理や人事、総務などのバックオフィス業務のみにしか適用できないと思いがちですが、実際にはよりフロント業務に近い業務に適用できます。そうして初めて全体最適が可能となるのです。

出所:アクセンチュア

山形 現場がどういう業務をどのように進めているか、すべて理解している経営者の方は多くありません。ですから、マーケティングや営業などのフロント業務では効率化を飛ばして高付加価値化だけに目が行ってしまうようです。が、実際にはこの2つは業務改革の両輪であり、両立が重要です。

山形 昌裕
アクセンチュア 製造・流通本部
マネジング・ディレクター

総合商社を経て2003年にアクセンチュアに参画。15年以上にわたり、流通小売業界を中心にビジネス改革を推進。特にクライアント企業のビジネス構造・組織構造を変えるトランスフォーメーションプロジェクトの実績多数。

――お話をお伺いすると、まず、経営者の理解が必要であるように思えますが、どのようにすれば、理解を高められるのでしょうか。

山形 実態を見てもらうことです。我々が細部まで調べた結果を見せると、皆さん驚かれます。「これだけの価値を生み出せるのであれば、抜本的な組織改革ができる」と。これは、我々が外部の人間だからこそできることです。業務改革を現場任せにすると、どうしても踏み切れなかったり、削減できなかったりします。

伊佐治 業務改革を本当の意味で成功させるには、デジタルテクノロジーを適用するだけでなく、実際に業務をする人を“リスキリング”して、日々の現場業務を意識レベルから変えることが必要です。

 取引先への支払い業務の例を考えてみましょう。キャッシュフローの観点からすれば、支払いは取引先と合意している期日ぎりぎりに行う方がいいのですが、業務担当者はそこまで意識することはほとんどありません。効率性だけ意識すると、支払伝票が回ってきたら通常はむしろすぐに処理しようとしますが、業務担当者の処理端末上に「△社の推奨支払いタイミングは〇日です」と表示することが出来れば、担当者は初めてキャッシュフローを意識して支払伝票を処理するようになるでしょう。現場レベルで日々の業務の質を変えるこのような機会は、いくらでも存在します。高付加価値化というと、日々の執行業務とは切り離された別の分析業務を想起しがちですが、これこそが業務の高付加価値化です。