これほどうまくいかないケースがあるということは、イノベーションラボを設立しないほうがよいのかというと、必ずしもそうではない。

 米ホームセンター大手ロウズが設立したロウズ・イノベーション・ラブズの元エグゼクティブ・ディレクターであり、現シンギュラリティ大学教員のカイル・ネルは、私にこう語った。「大企業には、我々が恐れるどこかのガレージの若者たちと同じか、それ以上に未来を担う権利がある」

 ネルには、そう言えるだけの実績がある。ロウズ時代、深宇宙用3Dプリンタ(現在国際宇宙ステーションで使用されている)や「ロウボッツ」(顧客が商品を見つけるのを手伝う自律型ロボット)などのブレイクスルーを指揮した。

 ネルとロウズのチームは、どのようにして逆境に打ち勝ったのだろうか。彼は、「何に取り組むかを見極めるための厳格プロセス」を、時間をかけて構築し、CEOや役員以下、すべてのレベルの社員に目指す成果物(それをつくるための途中のステップは不明なので、それではなく)を理解させ、現実的に話し合わせ、新しい体制をつくってKPI(重要業績評価指標)や成功指標を決めて、正しい方向に進んでいるかを確認できるようにした」という。

 ネルのアプローチのすばらしい点は、問題解決について考える人間が組織内に増えることだ。

 こうした施設や人材への投資の大きなポイントは、上記のビジョン、成長、人の問題に対処すると同時に、組織全体にわたって創造性を奨励することにより、イノベーションのプロセスに燃料を送り込むことである。イノベーション用のスペースをつくって非常線を張れば、昔の研究所のように専用の場所があり、創造性を仕事にしているようなスタッフにしかクリエイティブなことはできない、と示唆しているように取られる可能性がある。

 要するに、創造性には決まった場所はない。イノベーションラボが有益なのは、社内起業家が所属先に関係なく、成果を出すための教育、ネットワーク、その他のリソースを得られる点にある。

 理想をいえば、組織全体にイノベーション細胞(社内起業家によってしばしば牽引される)が行き渡っていてほしい。これによって、本当の改革が起こり始める。企業文化のDNAに変化が現れ、会社全体をイノベーションラボのようにつくり変えるからだ。


HBR.org原文:Why Innovation Labs Fail, and How to Ensure Yours Doesn't, July 22, 2019.

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シモーヌ・アフージャ(Simone Ahuja)
ベストセラー作家、講演家、イノベーションコンサルティング会社ブラッドオレンジ創業者。Thinkers50 2019イノベーションアワードにノミネートされる。近著Disrupt-It-Yourself(未訳)は、内発的なイノベーションや社内起業が必要な理由と方法を探る実践的シナリオ集。