ビジネスと整合していない

 ゼロックスPARCやベル研究所のような伝説的なイノベーション施設からイメージされるのは、究極の秘密主義とコアビジネスからの完全な分離だ。官僚主義、合議制によって斬新な発想が中和化されがちな企業では、この分離が特に重要かもしれないが、切り離すこと自体にはほとんど問題がない。

 問題が起きるのは、イノベーションセンターに企業戦略に沿った明確な戦略がない、または戦略そのものがないときである。

 多くのラボがスタッフの創造性をフル回転させようと、コンブチャのサーバーを置いて自由に飲めるようにしているのはよいが、ゴールのイメージをほとんど持たないままアイデア出しを始めている。私が最近会ったイノベーションチームの中には、自分たちがコアビジネスのために呼ばれたのか、それをディスラプト(破壊的変革)するために呼ばれたのかわからないと感じているチームもあった。

 戦略の欠落は、いわゆるイノベーション劇場によく見られる症状だ。経営トップは、ほとんど見せびらかすためにラボを披露する。自社にもちゃんとイノベーション、特にディスラプション専門のチームがいることを示したいからだ。

 にもかかわらず、幕はあっという間に下ろされる。その理由は、ラボから上がってくるアイデアが実際の顧客ニーズと結びついていないか、アイデアを具体化するという難しい役目を担う人がいないかのどちらかである。

 企業リーダーは、ラボ設立の意義や影響について見通しを立て、今後のビジネスをどう補完あるいは破壊させたいのかを判断し、さらには新しいアイデアをどう具現化するかを決めるという、難しい作業をきっちりと行う必要がある。それにはまず、いくつか考えなければならないポイントがある。

 ●ビジョン

 ラボが目指すべきゴールを明確にすれば、社内起業家も幹部もイノベーションの取り組みの方向性や目的を理解できる。当社ではそれを「from(現状)/to(目標)」という表現で言い表すことを勧めている。たとえば、「大規模なイノベーションに賭けること(現状)から、小規模な実験やラピッド・プロトタイピングを重ねること(目標)へ」「限定的な領域のイノベーション(現状)から、多数の新しいアイデアのトライアルとメインビジネスの成長(目標)へ」などである。

 ●成長

 アイデアの検証が済み、ラボを卒業して次に進める段階にきたときに、どうするのか。次にどこへ送り出せばサポートできるのか。選択肢としては、コアビジネスに戻すか、インキュベータやアクセラレータに戻すかだろう。だが、ディスラプションの可能性を秘めたイノベーションは、社内の対抗分子や保守勢力から守るために、コア組織の外に出して育てるのがよいだろう。

 ●人

 新しいアイデアを前に進め、未知の領域で実現するという難しい使命を果たす社内起業家を、ラボとしてどのようにサポートするのか。そのアイデアによって問題が解決する、エンドユーザーや顧客との接点はどのようにしてつくるのか。イノベーションの成功の根幹は人であり、その意欲や目的意識である。