仮説と検証方法

 社会心理学の理論では、リーダーは基本的に、支配または信望という2つの方法でその地位に就き、グループ内に影響力を及ぼすと考えられている。そこで筆者のグループは、あるリーダーが不正行為によってペナルティを受ける場合、その重さは、リーダーが支配型か信望型かによって決まると考えた。

 支配型リーダーは、自己主張が強く、強引にみずからの意見を押し通し、高圧的または脅迫的な戦術によって周囲に影響を及ぼすことをいとわない態度により、リーダーとして頭角を表す。その容赦ない責めの姿勢と、権威を振りかざす仕事のやり方が、グループの成功に有益と見なされるのだ。タフな現場監督として知られたマイクロソフトのスティーブ・バルマー前CEOは、支配型リーダーの典型だろう。

 一方、信望型のリーダーは、教師のように振る舞い、自分の知識やスキルや経験をグループとシェアすることにより、リーダーと見なされるようになる。仲間の学びや専門性獲得を助ける姿勢が、グループの成功に有益と見なされるのだ。協働的で現実的なアプローチで知られるマイクロソフトのサティア・ナデラ現CEOは、信望型リーダーの好例と言える。

 筆者の研究チームが立てた仮説は、ルール違反やミスにおいて本人の落ち度が不明確な場合(たとえば、税金の申告漏れが、本人に脱税の意図があったために生じたのか、税法が複雑なために生じたのか判然としない場合)、支配型リーダーは大きな責任を問われ、より厳しい処分を受けるが、信望型リーダーは「疑わしきは罰せず」の適用を受け、責任追及を逃れる、というものだ。

 その原因は2つある。第1の原因は、人がルール違反を認識する方法は極めて意図的であることと関係している。支配型リーダーは自己中心的で非倫理的と見なされているから、ルール違反を犯したとき、悪意のない純粋なミスとして見てもらうのは難しい。これに対して信望型リーダーは、さほど利己的だと思われていないので、同じルール違反を犯しても、それは純粋なミスだったと説明したときに信じてもらいやすい。

 第2に、信望型リーダーは利他的で、道徳的指針を持つことでも知られるため、不祥事を起こしても、さほど不正だとか、非倫理的とか、不道徳だと思われることがない。いわば、道徳の貯金が十分にあれば、漠然としたルール違反のショックを緩和できるわけだ。支配型リーダーには、こうした道徳的な経歴が十分にないため、その行動はより不正で不道徳と判断されやすい。

 このため支配型リーダーは、信望型リーダーよりも「純粋なミス」についてペナルティーを科されやすいと、筆者のチームは考えた。そして、この仮説を検証する一連の研究を行なった。

 まず、ナショナルホッケーリーグ(NHL)の選手が、マイナーな反則でペナルティ(退場)を科される可能性を調べた。マイナーな反則はしばしば判定が難しいものの、ペナルティーを与えるかどうかを一瞬で判断しなければならないため、審判が各選手に対して抱いているバイアスの影響を受けやすい。

 そこで全2シーズンの選手データと試合記録を調べたところ、地位が高い(高額報酬をもらっている)支配型選手は、マイナーな反則でペナルティを受けることが多い一方で、信望型選手がペナルティを受けることは大幅に少なかった(支配型選手は信望型選手よりも約13%多くのペナルティを科され、時間にして4.33分長く退場させられた)。

 筆者のチームは、プロの俳優を使ったグループ実験も行った。俳優にリーダー役になってもらい、5~6人のグループで問題解決に取り組んでもらう実験だ。タスクの最後にミスが発覚するが、それがコンピュータの誤作動によるものか、リーダーのルール違反によるものかはわからない。にもかかわらず、支配型リーダーのグループでは、メンバーが協力拒否という形でリーダーに罰を与えた。

 さらにいくつかの実験で、支配型リーダーは信望型リーダーよりも、その行動が意図的で、道徳性は低いと見なされがちであることがわかった。

 念のため女性リーダーについても調べてみたところ、やはり支配型か信望型かで責任の問われ方に差が出ることがわかった。ただしこの研究は、性別ではなくリーダーのタイプによる責任の問われ方の違いに焦点を絞ったことを強調しておきたい。同じミスや誤った判断をしても、女性リーダーは男性リーダーよりも厳しく批判されやすいことを示す研究があるが、筆者たちの研究は、原因がはっきりしないルール違反があった場合、支配型リーダーのほうが大きな責任を問われがちであることを明らかにした。

 こうした傾向は、現実の世界では大きな結果をもたらしうる。たとえば、多くの社員に尊敬されていたジョンソン・エンド・ジョンソンのジェームズ・バークCEOは、1982年にタイレノール毒物混入事件が起きたとき、責任をまぬがれただけでなく、危機への対応を称賛された

 これに対して、英石油メジャーBPのトニー・ヘイワードCEOは、メキシコ湾で石油流出事件が起きたときの発言があまりにも無神経で、自分のことしか考えていないと受け止められ、メディアと大衆の両方から大バッシングを受けた。ヘイワードは最終的に、辞任に追い込まれた。