AIにはまだできなくて、人は誰もが行なっていること。世界のトップリーダーはとても上手で、中でも飛び抜けているのがジョージ・ソロスであるという、センスメイキング。その具体事例から高める方法までを、『センスメイキング』の著者クリスチャン・マスビアウ氏に聞いた。(聞き手・構成/DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員・山崎繭加)


編集部(以下色文字):ご著書『センスメイキング:本当に重要なものを見極める力』が日本で翻訳出版され、話題になっています。センスメイキングについて、改めてご自身の定義を教えてください。

クリスチャン・マスビアウ(Christian Madsbjerg)
ReDアソシエーツ創業者
ReDアソシエーツニューヨーク支社ディレクター。同社は人間科学を基盤とした戦略コンサルティング会社として、文化人類学、社会学、歴史学、哲学の専門家を揃えている。コペンハーゲンとロンドンで哲学、政治学を専攻。ロンドン大学で修士号取得。現在、ニューヨーク在住。主著に『センスメイキング:本当に重要なものを見極める力』(プレジデント社、2018年)

 私にとって「センスメイキング」とは、異なる様々なデータを集めてそれらを統合する力です。ここでいうデータは、数字だけでなく、人の気持ち、何が美しいのかを示すもの、手書きのメモ、ビデオ、写真などいろいろなものが含まれます。

 多くの数字を統計処理したとしても、それはデータの一つのタイプでしかありません。ビッグデータが示すのは、人々がデジタルの世界で何をどれだけクリックもしくはスワイプするかということだけです。でも、私たちの人生や存在、行動、なぜそう行動するのかは、クリックするものやお金を使うものだけで捉えられるものではありません。そして、機械と違って、人は数字だけではないたくさんの種類のデータを読み取ることができます。

 つまりセンスメイキングとは、統計的なデータだけでなく観察から得られたものや歴史的な情報を使って問題を解き、アイディアを生み出す方法です。たくさんの種類の情報をもとに世界を理解すること、そして、これこそが人間の知性です。AIにはまだできません。

――具体例でご説明いただけますか。

 例えば、歴史学者が、フォードの創業者であるヘンリー・フォードのことを理解しようと思ったら、まず彼の生きた年、フォードのトップだった時期、彼の時代の経済状況などのデータを見ます。さらに、彼が書いたノート、その時代の写真、他の人が彼をどう語っていたか、時代の雰囲気など、あらゆる情報を集め、ヘンリー・フォードであるということはどういうことだったのかを理解しようとします。写真と経済データを比べるのは、機械にはできない難しいこと。つまり歴史学者がやっているのはセンスメイキングです。

 医者の例も説明しましょう。私が腹痛を医者に訴えれば、医者は身体のことを質問し、さらに検査も行って、情報を引き出します。これは機械でもできます。医者は同時に、私と話しながら私の顔色をみて、もしかして私の具合の悪さは精神的なものだと気づくかもしれない。不安が原因ではないか、と。これは機械にはできないけれど、よい医者ならできることです。

 センスメイキングとは、社会学者だけでなく私たち誰もが行っていることなのです。私がこれまで出会った世界のトップのリーダーたちは、センスメイキングがとても上手です。数字はもちろんのこと、組織の人のこと、タイミングなどあらゆる情報を踏まえ、統合し、意思決定に生かしている。

 でも近年、こうした人間の能力はあまり大切でない、という風潮が強まっています。人文科学を学べば今でもセンスメイキングのトレーニングを受けますが、機械ができることを強調しすぎるあまり、今の私たちは人間だからこそできるセンスメイキングという力を忘れ、そこから離れつつある。

――人文科学のアプローチを使って企業にコンサルティングを行うReD Associatesという会社を経営されています。どのような想い、ビジョンを持って会社を作られたのですか。

 私は若い頃、いずれ学者になろうと思っていました。哲学の教授になりたかったのです。しかし大学に入学してみたら、教授たちは幸せなようには見えなかった。

 テニュアを持つ教授は、一生職が保証され、研究したいことを研究し、教えたいことを教え、書きたいことを書け、かつ時間も自由、です。そんな素晴らしい仕事でニコニコしてもよさそうなのに、実際には誰も笑っていなかった。なので、学者の世界には進まない方がよいと思い、代わりにコンサルティングの会社を立ち上げました。

 人文科学で学ぶ能力を企業の高レベルの戦略にいかせるのではないか、と思ったからです。車を売りたいなら、価格や販売量だけでなく、車とは人々にとって何を意味するのか、ということをちゃんと理解した方がいいのではないか、と。

 私たちはとてもラッキーでした。まずレゴと仕事をして、レゴが私たちをアディダスに推薦し、アディダスがサムソンに推薦し、サムソンがインテルに推薦...という感じできています。食品会社のマースで一緒に働いた人が、ザ・コカ・コーラの役員になり、ザ・コカ・コーラとも仕事をしています。営業やマーケティングをしたことがないのです。最初はウェブサイトすらありませんでした。

 そして、自分たちがやっていることを書き、本にまとめました。最初の本がThe Moment of Clarity: Using the Human Sciences to Solve Your Toughest Business Problems(「すべてが腑に落ちる瞬間:ビジネスの最も難しい問題解決に人文科学を使う」日本語未訳)、そして昨年「センスメイキング:本当に重要なものを見極める力」を出版しました。どちらも反応がよく、「センスメイキング」はとりわけ日本でよく売れています。なぜこの国で売れるのか知りたくて今回来日しました。