日本企業は“オリジナリティの呪縛”に陥っている
腹をくくって真似るべきは真似ればいい

――戦後の日本は欧米を目標に経済成長を続けてきました。欧米の事業モデルを手本とし、それを効率的に運営するオペレーション能力を磨くことで競争力を高めた結果、多くの大企業が生まれました。つまり、日本の大企業経営者には、メガトレンドを見据えて戦略を立てた経験がほとんどないのではないでしょうか。

牧岡 一概にそうとは言えません。1977年にNECの小林宏治会長(当時)が提示した「C&C」(コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合)という概念は、見事にいまの状況を言い当てていると思います。

 ただ、そのビジョンとそれを実現する最適なテクノロジーの開発や活用を一体的に推進することは容易ではなかった。つまり、「Where to play?」はわかっていたけれど、「How to win?」の部分で競争優位を構築することが非常に難しかったということです。その結果、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などのアメリカ企業がC&Cを実現してしまったのです。

山根 日本はイノベーションが停滞し、独創的なビジネスモデルを生み出していないという批判を意識し過ぎるあまり、日本企業は“オリジナリティの呪縛”に陥っているのでないかと私は思っています。

 デジタルの世界で海外の先進企業をコピーし切れているかというと、まったくできていないのではないでしょうか。

 アメリカのウォルマートを例に挙げれば、アマゾン・ドットコムの台頭でリアルプレイヤーであるウォルマートは大打撃を受けると見られていました。ウォルマートもそこに危機感を持って、店舗の新設投資を大きく絞る一方で、デジタルへの巨額投資を続けています。シリコンバレーに拠点を設けて数千人のソフトウエアエンジニアやデータサイエンティストなどを採用し、テックベンチャーも次々に買収しました。

山根 圭輔
アクセンチュア 
テクノロジー コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
インテリジェントソフトウェア エンジニアリングサービス統括

テクノロジーコンサルティング本部において、FinTech/Digitalリード、テクノロジーアーキテクトグループのリードを担当する。

 現在、ウォルマートのEC(インターネット通販)事業を率いるのは、アマゾンに在籍後、「ジェット・ドットコム」を創業し、その会社をウォルマートに売却したマーク・ロア氏。最近、CTO(最高技術責任者)兼CDO(最高開発責任者)に就任し、ウォルマートのDXを指揮しているのは、アマゾンとグーグルで活躍した経験のあるスレシュ・クマール氏です。

 ウォルマートはいわば腹をくくってアマゾンを真似ようとしているわけで、結果的にウォルマートは単なるEC事業者ではない、OMO(Online Merged Offline)事業者に進化しつつあり、株価も回復しました。

――中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)もデジタル化では日本企業のはるか先を行っているように思えますが、腹をくくって真似るべきを真似れば、いまからでも遅くはないということでしょうか。

山根 中国平安保険は、保険、銀行、信託など伝統的な金融サービスとフィンテックを活用したオンライン金融、金融・医療機関向けクラウドサービスなどを展開する一大金融グループを形成し、金融業界では世界的なDXの成功事例と見られています。

 日本では規制の問題などもあってすべてを真似ることはできないとしても、グループガバナンスとか、意思決定モデル、システムのセキュリティ、クラウドの使い方など、できる部分だけでも真似てみる、あるいは徹底して学んでみる。それだけで、まったく違う世界が見えてくるはずです。やる前からあきらめるのは、もったいないと思いますね。

牧岡 ウォルマートのように経営者の意思一つで、新たなプロフィットプールを創成することができる。そういう時代だということを、経営者の皆さまは改めて認識をすることが必要ではないでしょうか。

写真左から、保科学世、牧岡宏、山根圭輔

第2回に続く)