ビジネスモデルに最適なアーキテクチャーを考え
それに合うテクノロジーを選択する

山根 テクノロジーの進歩によって、システムのアーキテクチャー(設計思想)や開発手法、開発スピードなども大きく変化しています。

 わかりやすい例でいえば、銀行の基幹系システムは、1960年代の第1次オンラインシステムから始まって、第2次、第3次とほぼ10年ごとに大幅に更新されてきましたが、基本的なアーキテクチャーや開発手法は過去50年間、ほとんど変わっていません。

 それは、既存の支店網があり、窓口に人がいて、金融サービスを提供するというリアルな世界でのビジネスモデルが変わっていなかったからです。

 ところが、ここにきてバーチャルな世界の金融サービスが新興プレイヤーの登場で急速に普及しつつあります。彼らは支店を持たず、窓口で接客する人もいない。クラウドをベースにして、AIなどの先端技術を駆使して金融サービスを提供しています。

 こういうバーチャルな世界のプレイヤーたちは、用途や目的に応じてアプリケーションをアジャイルに個別開発し、それらのアプリケーションをリアルタイムに連携させることで一つの大きなシステムとして機能させています。いわゆる、マイクロサービスと呼ばれるアーキテクチャーです。

 銀行に限らず、今後、バーチャルな世界での競争が避けられない企業は、自分たちが目指すビジネスモデルに最適なアーキテクチャーを先に考え、それに合うテクノロジーを選択し、アジリティを上げていく必要があります。

――経営者が最新のテクノロジートレンドについて自分で情報収集し、理解するのは簡単なことではない気がします。

牧岡 先ほども申し上げましたが、経営者にとって必要なのはすべてのテクノロジーを理解することではなく、テクノロジーの進歩と意味合いに対して高い感度を持つことです。

 例えば、ドイツのシーメンスは技術進化のメガトレンドに関して「ピクチャー・オブ・ザ・フューチャー(POF)」というレポートを年2回発行しています。同社の研究開発部門を中心に数百人が関わり、さらに外部の専門家などにも意見を聞きながらまとめているレポートですが、シーメンスはこのPOFを基に経営陣が議論して、長期の戦略を立て、事業構造やオペレーションモデルを継続的に変革しています。

 POFの作成は我々のようなプロフェッショナルファームも支援できますが、最終的に長期の戦略を決めるのはCEOの仕事です。そのCEOがテクノロジーに対して高い感度を持っていないとメガトレンドを察知できません。そして、POFに基づいて自分で描いた未来の企業像に対して、「こうなりたい」というCEOのパッションがこもっていなければ、どんな戦略を立てたところで、実行は難しいと思います。

山根 我々も世界中の経営層とIT部門の役員、合わせて6000人以上を対象とした調査を基に、「Accenture Technology Vision」というレポートを毎年発表しています。2019年版のレポートでは、今後3年間に企業やビジネスに大きな影響を及ぼす5つの最新トレンドを提示しているのですが、そのうちの一つが「『ヒューマン+(プラス)』としての労働者」です。

 テクノロジーによってもたらされる新たな能力を身につけることで、労働者は「ヒューマン+」と呼ぶべき存在に変わり、一人ひとりがより大きな力を発揮できるようになります。これは我々が実際に行っていることを説明するとわかりやすいと思うのですが、アクセンチュアではAIを相棒のように使う働き方に取り組み始めています。

 例えば、マイクロサービスのアーキテクチャーで複数のアプリケーションを同時並行的に、かつアジャイルに開発していく場合、プロジェクト管理が非常に複雑になり、人間だけで回していくのは非常に難しい。そこに我々はAIを活用しています。テクノロジーを活用して従業員を「ヒューマン+」に変えていくことは、どんな企業でも可能だと思います。

保科 そうしたテノクロジーのトレンドやビジョンを実感していただくために、我々は2018年1月、「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」を立ち上げました。

 経営者に口頭で説明するだけでは、新しいデジタルの世界とは何かを理解していただくことはなかなか難しい。イノベーション・ハブ東京では、最新のデジタルテクノロジーを体験していただけるだけでなく、ワークショップや他社とのコラボレーションを通じてアイデアを創出し、新しいサービスやプロトタイプを実際に開発するところまで一貫して行うことができます。

 その一連の流れを体験することで、デジタルな世界の手触りを感じていただければ、おのずとテクノロジートレンドに対する感度が高まってくると思います。

 ただ、牧岡が先ほど申し上げた通り、経営者が描く自社の未来像、企業としてどこに行きたいのかという目標設定がまず先で、その目標に到達するために最適なテクノロジーを選択することが重要です。