最新のデジタル技術を使って、既存事業を劇的に効率化する、高収益化する、あるいは新たなコア事業を創造する。こうしたデジタルトランスフォーメーションが、日本企業ではなぜ停滞しているのか。その根本的な要因を、アクセンチュアの戦略コンサルティング部門、デジタルコンサルティング部門、テクノロジーコンサルティング部門の3人へのインタビューから探り出す。

テクノロジーの飛躍的な進歩によって
経営の自由度は上がっている

――経営の最優先課題としてデジタルトランスフォーメーション(DX)を掲げる企業は多いのですが、なかなか成果が上がらず頓挫してしまったり、具体的にどう進めればいいのかがわからず足踏みしていたりする企業が大半のようです。

牧岡 経営者の皆さまにとっては何をいまさらということかもしれませんが、テクノロジーの飛躍的な進歩によって広い意味で経営の自由度は上がっているということを、まず強調したいと思います。もっと端的に言うと、プロフィットプール(儲かる土俵)は予測するものではなく、能動的に創成できるものになったということです。

 企業はこれまで、業界内における競争要因やマクロ環境などを分析し、それを基に戦略を練ってきました。つまり、プロフィットプールをマクロレベルで生成されたり、消失したりする“現象”としてとらえ、その現象を予測することが戦略立案の前提でした。

牧岡 宏
アクセンチュア 常務執行役員

戦略コンサルティング本部 統括本部長
シニア・マネジング・ディレクター
丸紅、ベイン&カンパニーを経て2014年にアクセンチュアに入社。東京大学工学部卒業、MIT経営科学修士修了。

 しかし、いま最先端のテクノロジーを使えば、従来はどんなにお金と時間をかけても不可能であったことを、圧倒的な低コストとスピードで実現することが可能になっており、個別企業というミクロレベルでプロフィットプールをみずから創成することができるようになったのです。

 だからこそ、経営者はどんなテクノロジーが実用可能で、それを使うことでどのような可能性が広がるのかということをよく理解していないと、戦略を見誤ることになります。テクノロジーのオタクになる必要は決してないのですが、少なくとも高い感度でテクノロジーの最新動向とそれらの経営の自由度における意味合いを察知しておくことは重要です。

 経営者のテクノロジーに対する感度が鈍いと、DXのスタートラインでつまずいてしまいます。そこが、課題となっている企業も多いと思います。

保科 世の中の流れ自体が、中長期計画を立ててそれを確実に実行していくところから、試行錯誤しながら最適解を見つけるというアプローチに変わりつつあります。デジタルテクノロジーの力を借りて、低コストで素早く、試行錯誤する。これは実世界だけなくバーチャルな世界でシミュレーションして、最適解を見つけるというアプローチまで含みます。

 グーグル傘下のディープマインドが開発した「AlphaGo」(アルファ碁)でも話題になった強化学習を使い、シミュレーション環境の中で人間では思いつくことができなかったような解を見つけるケースも出てきています。つまり、バーチャルな世界で試して、実世界に適用できる世の中になってきたわけです。

保科 学世
アクセンチュア
デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクター

アクセンチュア アプライド・インテリジェンス日本統括
アナリティクス・AIソリューションの開発を指揮し、多くのサービスを開発。これらのサービス提供責任者も務める。理学博士。

 こうしたAIやアナリティクスを使ったシミュレーション、そしてビジネスへの実展開が今後ますます広がっていくはずです。そのとき、経営者はアルゴリズムを詳しく理解していないまでも、どんなデータを読み込ませたことで、どのようなアウトプットが出てきたかということは知っておくべきだと思います。

 なぜなら、例えば偏見を含んだデータで学習したAIは偏見を取り込んだアウトプットを出してしまうことがあります。どのようなデータ、環境下でAIを学習させ、その結果をどう用いるのか。いままでとは異なる判断が、経営陣にも求められます。

 牧岡が申し上げた通り、現時点でほとんどの企業は競争要因やマクロ環境を分析したうえで戦略を立てているわけですが、先を見通すことが難しい時代だけに分析すべき情報量は飛躍的に増えています。そうした膨大なデータの分析はAIが得意とするところで、人間よりも圧倒的に早く、確度の高い予測を導き出します。つまり、仮説・検証のサイクルは、AIの力を使ったほうがはるかにスピーディかつ精緻になるということです。

 どのようなデータを読み込ませて、どんな予測を得るか。新たにどんなデータを学習させて、仮説をブラッシュアップするか。経営戦略や中長期計画もそういう試行錯誤をしながら、最適化を図る時代になると私は考えています。

 故障予知や異常検知のアルゴリズムはどんどん進化しており、すでにさまざまな企業が実用化しています。市場にどのような変化の予兆があるのか、大きなトレンドを起こす萌芽が水面下に眠っていないかをAIが探し出す、あるいはバーチャルな世界での試行錯誤によりAIが最適解を見つけるといった取り組みも始まっています。