(1)ポストに応募する前に自分から売り込む
 
 新しい市場への参入や新しい競争など、ビジネスの環境が変化するときは、組織の構造をその変化に適応させる必要がある。そのために、新しい機能や取り組みを実行する、新しい役割が創設されることが多い。

 ただし、このような変化は、何もないところから生まれるわけではない。人が変化を起こすのだ。ファースト・ハイヤーズは、提示された新しい構造に自分を当てはめるのではなく、組織が新しいポジションをつくる前に、その必要性に気づく。

 私がリサーチしたファースト・ハイヤーズの多くは、まだ存在しない(少なくとも従来の意味では存在しない)役割について、みずから上司に売り込んでチャンスを手に入れている。

 ハーフ・ドットコムの元副社長(事業開発担当)のクリス・フラリックは、自分を売り込む特製の履歴書を用意して、同社の創業者に見せて採用された。フォースクエアに事業開発部門の最初の従業員として採用されたトリスタン・ウォーカーも似たようなアプローチで入社し、のちに副社長になった。最も有名な例は、ウーバーが最初に雇用した社員として知られるライアン・グレイブスで、彼は同社のCEOが新しいポストについて投稿したツイートに返信して、採用された。

 このアプローチは、最初の採用時に限られるものではない。ファースト・ハイヤーズは、事業の変化に合わせて自分の役割を頻繁に変える。

 ドロップボックス初期の従業員の一人ジョン・インは、地域担当マネジャーや「隠密作戦本部長」など、社内で少なくとも8回、自分の役割を変えた。組織にとって必要なことが短期間で変わるのに対応しながら、より多様な責任を引き受けてきたのだ。

「会社に恩恵をもたらすように行動するという、絶対の信頼を得ていた」と、インは私に言った。「もちろん、何か大きなことをする前は、必ず同僚や上司と整合性を確認する」

 ●どのように実践するか

 自分を売り込む資料をつくる。単純な履歴書ではなく、自分を具体的にアピールするツールとなり、自分のキャリアに重要な問いを投げかける機会にもなる──自分の理想的な役割は何か、どのような問題解決に貢献できるか、どうすれば自分の実績をうまく説明できるか。

 自分の強みを認識すれば、自身が仕事で提供できることを把握できる。次に、それらのスキルが必要とされる機会が訪れたときに、自分の所属する組織の中でも外でも、挑戦しやすくなるかもしれない。

(2)第三者の視点を持ち続ける

 新しい事業が立ち上がったすぐ後は、たしかなことは何一つない。

 ビジネスモデルが破綻するかもしれない。顧客が来ないかもしれない。市場は幻想かもしれない。競争力がどちらに転ぶかわからない。成功するためには、従業員が第三者の視点を持ち続け、会社の針路を狂わせるようなリスクや脅威、予想外の出来事を常に考慮する必要がある。

 こうした建設的なパラノイアが存在する理由の一つは、特にIT業界で、スタートアップが「キル・ゾーン」[訳注]のリスクにさらされていることだ。ピカサやミーアキャットがたどった運命を振り返れば(ここにスナップチャットを加える人もいる)、大企業が自陣を荒らしそうな相手をどのようにキル・ゾーンに追い込んで叩きつぶすか、よくわかる。

 ただし、自分の置かれている状況を理解すれば、今後を予想して競争に備えることもできる。マイクロソフトのファースト・ハイヤーズの一人、スティーブ・バルマーはその能力に優れていた。

 マネジメントの権威ジム・コリズは共著書『ビジョナリー・カンパニー4』で、マイクロソフトがIPOを前にして潜在的リスクを投資家に開示するにあたり、バルマーが、起こりうる大惨事を次々と列挙したときのことを記している。あらゆる破滅的な可能性の説明がようやく終わると、株式引受人の一人がバルマーに、「きみから悪い知らせを聞く日が来ないでもらいたいものだ」と言った。

 その後、マイクロソフトは史上最も成功した企業の一つとなり、PC革命でIBMなどの競合相手を退場させ、今日のクラウドコンピューティング時代にも適応している。競争を予想して対応する力が重要な役割を果たしたことは、間違いない。

 ●どのように実践するか

 主要な競争相手5社について、グーグルアラートを設定して定期的に情報収集をする。単純すぎると思うかもしれないが、肝心なのは、それらの情報をどのように使うかだ。新しいアイデアのきっかけになるかもしれない。教訓を学べるかもしれない。あるいは、会議で競争相手に関する質問に答えやすくなるかもしれない。

(3)ミッションを忘れない

 スタートアップの規模が大きくなるにつれて、従業員は創業時のミッションと目標を見失いがちだ。毎週の会議や四半期ごとの目標の見直し、年次報告などが、それらを確認する機会になるだろう。

 一方で、多くのファースト・ハイヤーズは、ビジネスモデルについて議論を戦わせた日々をよく覚えていて、新しく加わったパートナーや従業員に繰り返し話をする。会社の存在意義を熱く語るときもあるだろう。

 これが、ファースト・ハイヤーズの気概と創造性を助長する場合も多い。会社のロードマップやインフラに関する揺るぎない理解を周囲に伝えることによって、自分の足元も固まるのだ。その結果、変化の根底にある目的を理解しやすくなり、変化に適応し、利用して、予想外の場所でも機会を見つけることができる。

 目的意識を持続することは、私自身が経験してきたことでもある。

 昨年、ゼネラル・アセンブリーはアデコ・グループに買収された。アデコは3万人の従業員を擁し、60ヵ国でさまざまな事業を展開する上場企業だ。

 買収から数ヵ月後、私は自分がもっと満足するだろうと思っていた。私たちはついにやったのだ。規模がもたらす安定を手に入れたのだ。

 しかし実際は、私はかつてないほど意欲を感じている。かつては不可能だった新しいアイデアやビジネスモデルが、突然、現実味を帯びている。自分の役割やリズム、仕事のやり方の変化にも、私はスムーズに適応している。

 これは8年がかりで身に着けた能力だ。ゼネラル・アセンブリーがスタートアップから大企業へと姿を変える過程で、会社のミッションは私の最も重要な動機となってきた。新しい経営陣の下で、そのミッションをさらに成長させる機会を得たのである。

 つまり、自分の会社のミッションを見失うことなく追求できる従業員は、変化が提供する機会を適切に認識して利用できる。

 ●どのように実践するか

 年次報告書のどこかに、会社の「ミッション・ステートメント」があるだろう。それを折に触れて見直すことも役に立つが、より好ましいのは、創業チームのプレゼンテーションや記録、文章などに直接、触れることだ。

 時間をかけてそれらを消化したうえで、会社のミッション・ステートメントを自分の言葉で1行に要約する。これを目につきやすいところに掲示して、重要な決断を下す前に振り返ること。

(4)常に顧客を第一に考える

 戦略の立案と実行の中心に顧客がいる企業は、変化に直面したときに、より強いレジリエンスを発揮できる。事業が成長する過程でも、消費者側の問題や動向をより正確に見極めて、より迅速に対応できるだろう。

 ただし、多くの分野で、このようなアプローチは大きな課題になっている。一般の従業員は、顧客とほとんど接することがない。代わりに関連のプレゼンテーションやフォーカス・グループの報告書を見たり、顧客と接する部門から集めた意見を確認したりする。

 私が話を聞いたファースト・ハイヤーズの大多数は、最初の顧客のことを覚えている。多くの人が顧客と直接やり取りをして、彼らが自社製品を買った動機を学んだ。これらの記憶と洞察のおかげで、新しい製品や機能、販促活動などをめぐる重要な判断に、顧客の声を取り入れることができる。

 クライアント/顧客との個人レベルの関係を重視する組織は、その規模に関わらず、この恩恵を得られるかもしれない。

 ●どのように実践するか

 満足している顧客と腹を立てている顧客の両方に接する機会をつくる。そのためには、営業会議に参加する、カスタマーサービスのやり取りを聞く、年次の経営検討会議に出席するなどの方法があるだろう。自社製品の良い点と悪い点について顧客から直接、聞くことによって、大半のリサーチを参考にするより、自分の仕事を深く理解できるだろう。

(5)乗客ではなく操縦士になる

 スタートアップに多い水平な組織と小規模なチームは、従業員がそれぞれのプロジェクトに集中しやすくなる。誰かが成功すれば、周囲からよくわかる。失敗したときも同様だ。小規模な企業ほど従業員の責任が大きく、したがって、より強い当事者意識が植えつけられている。

 ただし、大半の企業は、成長するにつれて従業員の役割と責任が限定的になる。かつては全社を挙げて取り組んだプロジェクトも、技術チーム、営業チーム、マーケティングチームなどに分割され、やがて1人が担当する仕事が限定的になり、メールの件名も、たとえば特定の製品の販促について、となる。

 こうした急激な成長に伴い、降格や権限の削減を経験する人もいるだろう。一方で、より困難なプロジェクトでも当事者意識を忘れない人にとっては、新たな機会となる。

 私が話を聞いたファースト・ハイヤーズの中でも、とりわけ成功した人々は、自分の責任に対して強い当事者意識を持ち、本来の役割以上の行動を取ることも少なくない。ゼネラル・アセンブリーに新設された「標準設計チーム」のプロダクト・マネジャーとして入社したニキル・コスラも、そんな一人だ。

 このチームは、業界に認められるような標準を作成し、技術的スキルの将来像を定義するという大胆なミッションを掲げていた。ただし、資源は限られていた。基本的なルールブックも存在しない分野だった。コスラ自身の才覚と創意工夫にかかっていたのだ。

 彼はいくつもの役割を引き受け、技術、マーケティング、営業と部門をまたいで協力体制を築き、新しいプロジェクトの構想を描いて始動させなければならなかった。1日のあいだに、技術部門の計画表を作成して、営業活動に参加し、カスタマーサービスの電話に応対するときもあった。

「率直に言って、スタートアップでは誰かのせいにできない」と、コスラは私に言った。「だから自分でやる。特に、ある製品に関わっている人が1人か2人という状況ではやるしかない」

 コスラの経験から、大規模な企業も、当事者意識とイニシアチブの重要性を学ぶことができる。ゼネラル・アセンブリーの標準チームの立ち上げに数年間携わった後、コスラはラルフ・ローレンに同社史上最年少のバイスプレジデントの一人として引き抜かれた。現在は、上着類のラインの責任者を務めている。

 ●どのように実践するか

「1日CEO」になりきる。CEOの視点から会議に参加し、プロジェクトと向き合い、メールのやり取りをする。CEOなら、この状況でどのように振る舞うかを考える。それによって、あなた自身の対応や行動がどんなふうに変わるだろうか。

 CEOは、相反する必要や役割のバランスを取りながら決断を下さなければならない場面も多い。この精神的なエクササイズを通じて、責任者の立場で考えながら、自分の仕事や会社について全体的な視点を持ちやすくなり、当事者意識が高まるだろう(現在CEOだという人は、「1日ファースト・ハイヤーズ」に挑戦しょう)。

 私は10年近くのあいだ、世界でもとりわけ大規模で急成長を遂げている企業のいくつかで、将来に向けてチームのスキルを育む手助けをしてきた。その経験から、ファースト・ハイヤーズのように考えて行動する従業員やマネジャー、リーダーには、輝かしいキャリアが開けると確信を強めている。

 大きな企業も小さな企業も、変化に適応する意欲のあるメンバーに投資してほしい。そのスキルを習得する指針として、ファースト・ハイヤーズの研究は格好の例となるはずだ。

【訳注】
大企業が買収後に資源を干上がらせる、規模にものを言わせて低コストで競合する、優秀な人材を引き抜くといった戦略で、競争相手となりうるスタートアップを「キル・ゾーン」に追い込んでつぶす。


HBR.org原文:Teach the Rest of Us About Work, June 24, 2019.

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アナンド・チョプラ-マッゴーワン(Anand Chopra-McGowan)
ゼネラル・アセンブリーの「ファースト・ハイヤーズ」の一人。現在はバイスプレジデント兼マネージング・ディレクター。国際的拡大戦略の責任者を務め、大企業に対して将来に向けた人材育成の助言をしている。ファースト・ハイヤーズに関する書籍を執筆中。