シリコンバレーで日本企業はどうすればいいのか

 今回の特集テーマを考える上で、参考になる書籍として、『ムーンショット!』(ジョン・スカリー著、パブラボ、2016年)があります。冒頭に、「ムーンショットとは、シリコンバレーの用語で、『すべてをリセットしてしまう、ごく少数の大きなイノベーション』のことをいう」とあります。

 本書にはムーンショットの語源となったケネディ米大統領のアポロ計画に始まり、シリコンバレーを中心とした米国のハイテク産業の変化を、起業家やそのメンターの立場から描いています。

 スポットを当てるのは高い志とやる気、好奇心に溢れた「適応型イノベーター」ですが、それを超越する「破壊的イノベーター」として、自身が付き合ったスティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアックなど6人とともに、今日目が離せない天才と評するのがイーロン・マスクとジェフ・ベゾス。いま、宇宙開発を主導するのはこの民間人2人です。今号でもいくつかの論文で、イノベーターの事例として登場します。

「いまは宇宙こそがフロンティアだ。再び宇宙に出て行く。重力、一日の長さなどを勘案すると移住するなら火星が最適だ」――2017年の国際宇宙会議でマスクが語ったスピーチなど、その言動を詳細に取材してマスクの思考法や社会に与える影響を示す『イーロン・マスクの世紀』(兼松雄一郎著、日本経済新聞出版社、2018年)は同時に、シリコンバレーのビジネスの一端を明かしています。

 マスクのEV会社テスラから過激な要求を突きつけられ、右往左往する日本企業のケースからは、かの地でビジネスを展開する難しさを知ることができます。GAFAと伍して行くにはシリコンバレーで一定のプレゼンスを持つことは有効な施策ですが、多くの日本企業が拠点を設けているのに、成果は出ていません。どうしたら、いいのでしょうか。

 参考になるのが、『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(櫛田健児著、朝日新聞出版社、2016年)です。著者はスタンフォード大学アジア太平洋研究所リサーチアソシエートとして、IT関連のイノベーションやシリコンバレーの経済エコシステムなどを研究しています。

 Stanford Silicon Valley - New Japan Projectを主導し、日本企業とシリコンバレーを連携させるプロジェクトを進めています。本書は一連の研究や活動の成果をまとめたもので、シリコンバレーで起きているイノベーションの全体像と本質を描いた上で、日本企業がシリコンバレーを活用する方法を提言しています。

 もう1冊、今号の特集の執筆者である加藤崇氏の著書『クレイジーで行こう! グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む』(日経BP社、2019年)も、お薦めです。

 タイトルは著者が日本の読者に伝えたいメッセージになっていますが、本書には米国でビジネス(特に新事業)を展開する上でのノウハウが詰まっています。

 加藤氏は、自社の技術を活かせる市場はどこにあるかを探るため、あちこちの展示会に行き、来場者にプレゼンして、彼らの話を聞き、自社の事業(製品も顧客ターゲットも)を修正していきます。

 おぼろげながら有望市場が見えると、その開拓に適した人材を探して、採用し、営業。顧客に試作品をテスト試用してもらい、改良。その合い間に投資家に事業計画やその進捗状況を説明し、資金調達。それぞれのプロセスで何を考え、顧客や社員、取引先などにどう接して、成否が分かれたかを著しています。

 同書の元になっている原稿は、加藤氏が自分の活動をリアルタイムで「日経ビジネスオンライン」に連載していたもので、試行錯誤にリアリティがあります。あらゆる階層のビジネスパーソンにとって役に立つはずです。
 
 最後に、DHBR書籍の宣伝です。『THE ONE DEVICE ザ・ワン・デバイス――iPhoneという奇跡の"生態系"はいかに誕生したか』が、7月10日に発売されました。

 アップルの秘密主義を超え、iPhoneの開発には多くの大学やスタートアップ、研究所、生産には多くの鉱山労働者や工場労働者が関わっていることを明かしています。幅広い側面から iPhone 誕生秘話を描き尽くした、有力ジャーナリストの執念の1冊です。

 また、6月27日には、電子書籍『SHIFT:イノベーションの作法』(濱口秀司著)が発行されています。世界で活躍する稀代のビジネスデザイナーの濱口氏が本誌に2016年11月号~2017年12月号に連載執筆したものをまとめ、さらに2016年4月号掲載の論文「『デザイン思考』を超えるデザイン思考」を収録した論文集です。企業が、偶然のひらめきや天才に頼らない形で、革新を起こす方法が著されています(編集長・大坪亮)。