こうしたインサイトは、日常の仕事の中で生み出されることがある。たとえば、営業担当者がある製品の機能の向上につながりそうなアイデアを持っていたとしたら、客先への定期訪問の時間を15分延ばすだけで、話を聞くことができる。

 他のインサイトには指示が必要だ。営業やカスタマーサービスと違って、ふだん顧客と接点のない社員が参加するには、会社の優先業務として指定される必要がある。

 会計ソフト最大手のインテュイットは、マネジャーと社員のどちらの業務にもこれをルーティンとして取り入れ、月に数時間、顧客と接することを義務付けている。義務ではあるが、企業文化として浸透しきっており、いまでは特に指示されなくても、全社員が日常業務の中で自然に行っている。

 こうしたカスタマー・エクスプロレーション(顧客探索)を業務の一環として取り入れることは、大企業だけでなく中小の企業にも有効だ。

 イタリアの有名シェフ、ダヴィデ・オルダーニのミラノにあるミシュラン星付きレストラン「D’O(ドー)」には、ウェイターと呼ばれる人がいない。高級レストランなのにおかしいと思われるかもしれないが、給仕の仕事は、料理人の定型業務に含まれている。料理人たちは、毎週交代で直接顧客の注文を取り、レストランという環境における顧客ニーズを身をもって体験する。

 料理について熱く語り、変化する顧客ニーズを理解するには、ウェイターより料理人のほうが明らかに向いている。料理人たちは、レストランの顧客との接触を通じて得たインサイトを、季節ごとに行われるメニュー革新会議に持ち寄っている。

 このタイプの顧客インサイトの創出には、大きなメリットがいくつかある。

 1つはコスト面。いまでは多くの企業が社員にスマートフォンやタブレットを支給したり、補助したりしている。教育さえすれば、ほぼコストをかけることなく「センサーたち」に、持ち合わせのデバイスとアプリでエスノグラフィックリサーチやヒアリングを実施させ、情報共有することができる。

 2つ目のメリットは、想像を超える量の定性的なインサイトを創出できることだ。2000人の社員が毎月2時間、顧客と問題点などを検討したとすると、毎月4000時間、ほんのわずかな追加コストで顧客調査を実施していることになる。商品開発チームにはありがたい、大量のデータだ。このコストパフォーマンスに勝てるリサーチ会社はない。

 あとは、こうした調査結果からインサイトを導き出す社内プロセスがあれば、画期的な商品を見出すことも、これまでとは異なる方法で社員のクリティカルシンキング(批判的思考)スキルや、顧客に対する理解を広げることもできて、一石二鳥である。


HBR.org原文:How to Keep Employees Connected to Customers, June 21, 2019.

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アレッサンドロ・ディフィオーレ(Alessandro Di Fiore)
ECSI (ヨーロピアン・センター・フォー・ストラテジック・イノベーション)とECSIコンサルティングの創設者兼CEO。ボストンとミラノに拠点を置く。連絡先はadifiore@ecsi-consulting.com、ツイッターは@alexdifiore。