ケーススタディにおける
ステレオタイプの傾向

 ●文化に関する大雑把な記述

 一部のケーススタディでは、国の文化に関する記述が画一的で、その多くはコンテキスト(状況・文脈)やデータ、具体例を提示していない。現実には、ある文化や集団には、ひとくくりでは言い表せない微妙な差異が含まれている。

 次に挙げる例を見ていただきたい。Benihana of Tokyoにこのような描写がある。

「(一つの要因は、米国にいる日本人シェフたちが)ベニハナの米国事業で昇進する速さである。彼らは日本にいたら、階級や年齢、学歴に基づくかなり硬直的なヒエラルキーに直面するであろう」

 これは、ステレオタイプに基づく前提であり、「硬直的なヒエラルキー」の例や、それが日本にいるシェフにどのような影響を与えうるかを示す例をきちんと挙げていない(こうした前提がステレオタイプをさらに助長する)。

 Azul Airlinesでは、執筆者は次のような主人公の言葉を引用することで、その男性がなぜブラジルを拠点として選んだかを説明している。

「私はこの国の言葉を学び直して、(ブラジルの)すべてに恋してしまいました。美しい人々、素敵なビーチ、おいしい食べ物――愛さずにはいられませんよね。それに、ブラジル人は世界で最もフレンドリーな人々だと思いました」

 執筆者はここで、主人公のブラジルに対する愛着を描写する際に、彼の大雑把な発言を引用しなくてもよかった。データや事例を挙げるなど別の方法を選べたはずである。

 ●消費者の行動に関するコンテキストの欠如とステレオタイプの助長

 消費者の動機や行動に関する描写の中にも、ステレオタイプを発見した。

 ここに挙げるのは、勃起機能不全(ED)の処方薬であるシアリスに関する、2つの異なるケーススタディから見出した例である。スタンフォード大学のケーススタディCialis: A Segmentation and Targeting Dilemma(オンラインでは非公開)の執筆者は、EDを次のように説明している。

「さらに、自分の男らしさやパートナーへの親密感が減少するといった精神的影響にもつながる。90%を超える男女が、男性の性的能力に関する自信は、良好な愛情関係を維持するのに不可欠なものだと答えた」

 男らしいと感じることが減るという結果は、調査によって導き出されたのかもしれない。だが、このような記述は、男性の性的能力は男らしさを感じるうえで重要であり、重要であるべきだというステレオタイプを助長する。

 Product Team Cialis: Getting Ready to Marketでは、EDを経験している男性のパートナーについて述べている部分には、女性しか登場しない。もし調査対象が女性パートナーだけだった場合、筆者はこれを認識して、シアリスは異性愛者の男性だけに使われるのではないのだと注記できただろう。

 ●性別に関するステレオタイプの助長と、性別による役割の強化

 主人公が女性のケーススタディでは一般的に、女性は共同的(communal)で、男性は主体的(agentic)だというステレオタイプを助長するようなディテールが含まれていた。さらに、女性に関する表現や強調事項には、男性の主人公にはあまり使われない――そして教える要点に関係ない――ものも見られた。

 たとえば、Heidi Roizenの執筆者は次のような発言を引用している。

「彼女は愉快で、笑うのが好きで、本当に面白い人なんです。仕事以外の場で、子どもと一緒にいるときの彼女に会った人はおそらく、"とても素敵なお母さんだなあ"と思って、大企業家と話しているとは気づかないでしょうね」

 この種の描写は、女性が共同的であるというステレオタイプを助長しているうえに、「素敵なお母さん」と「大企業家」を不必要に対比させている。

 同様に、性別による役割を助長・強化するような引用が頻繁に含まれている。

 Tamago-Ya of Japan: Delivering Lunch Boxes to Your Workには、こんな引用がある。「もちろん、一番いいのは奥さんにつくってもらう昼食で、弊社のものはその次です」。これを、主人公が「家庭料理が一番いい」ことを認めた、という表現に編集するのは簡単なはずだ。

 Lincoln Electric Co.では、「(新人の)ほとんどはマザコン坊やで、仕事をしたがらないんですよ」という言葉の引用が、男らしさの意味を統制し、男性が一家の大黒柱であるという典型的な考え方を助長している。

 ●ステレオタイプとマーケティング・セグメンテーションの混同

 マーケティングや広告のケーススタディは、特に困難を伴う場合がある。執筆者は、さまざまな組織が顧客像をどのように見極めて描写しているのかを捉える必要があるが、その顧客像は往々にして、ステレオタイプに基づいているからである。

 例を挙げると、ケーススタディThe Economistの執筆者はこう書いている。「キンドルの顧客層は"ガジェットおたくの25歳男性ではなく、小説を読む50歳の女性"とされた」

 ここで重要なのは、企業がマーケティング戦略や顧客セグメントを表現する際に用いる言葉を、執筆者はケース中に入れるべきではない、ということではない。しかし、こうしたケーススタディを使うMBAの教員は、次の点を説明するとよい。

 マーケットのセグメントとステレオタイプは必ずしも同一ではない。そして企業がステレオタイプに頼れば、それに合致しない従業員や顧客を意図せずに排除するおそれがある。