経営の視点から見ると、人財マネジメント領域における最も重要な課題は、昔もいまも変わっていません。それは、「適財」「適所」「適時」「適量」の4つです。つまり、先ほど申し上げた、いつ、どこに、どのような人材を、何人配置するのかということです。

 では、何が変わったかというと、これまではこの4つの最適化を人事部門が人海戦術で、かつ経験と勘に頼って行っていました。しかし、変化がめまぐるしいデジタル化の時代は、人海戦術では間に合わないし、過去の経験と勘が通用しない。一方で、デジタル技術が発展しているわけですから、それを4つの最適化に活かしていく。そこが大きな違いです。

 例えば、経営参謀としての人事部門が経営者や事業部門の責任者と共に中長期の事業プランを立て、これから求められるジョブ、その実行に必要なスキル要件を定義し、誰にどういうスキルを身につけてもらうかを決める。身につけなくてはならないスキルは一人ひとり異なりますし、本人のキャリアプランなども考慮しなくてはなりません。複数の事業を展開している企業の場合は、成長事業なのか、成熟化していて大胆な転換が必要な事業なのか、あるいは新規事業なのかなど、事業部門ごとの特性に応じて求められるジョブやスキル要件も変わってきますから、膨大な変数を考慮に入れながら最適解を求めなければなりません。これを、いままでと同じように人海戦術、経験と勘に頼っていたのでは、人事部門はパンクしてしまいます。

AI時代の人財マネジメント
4つのポイント

 HRテクノロジーのなかでも、いま最も注目されているのはAIの活用だと思いますが、人財マネジメント領域でAI活用を進める場合のポイントは何でしょうか。

 人財マネジメント領域で、AI/コグニティブ技術などを活用する際のポイントとなるのは、「従業員体験の最大化」「個人最適化」(Personalization)「事実に基づく示唆の提供」「いつでも寄り添う」(Always Connected)の4つです。

 従業員体験の最大化とは、入社から退職までのエンプロイー・ジャーニー全体を通じて、自己成長や働きがいを実感できるようにすること。個人最適化とは、社員一人ひとりの特性やキャリア目標などに応じて、パーソナライズされた学習プランやジョブ・オポチュニティを提供すること。事実に基づく示唆の提供とは、上長の主観や経験ではなく、社内全体で蓄積したデータに基づいたアドバイスやフィードバックを与えること。そして、いつでも寄り添うというのは、常に一人ひとりの行動やパフォーマンスをよく見て仕事へのエンゲージメントが高まるようサポートすることです。

 人事部門の人たちであれば、いずれも「当たり前のことだ」と思うかもしれません。しかし、「この4つのポイントを実現できていますか」と尋ねられたら、自信を持って「できている」と答えられる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

 つまり、人事部門の人たちは、課題はわかっている。しかし、それをどう解決するか、「How」の部分が具体的に見えていなかったのだと思います。その「How」に、ビジネスの現場で実活用することができるようになったAIを使わない理由はないと思います。

 先に取り組んだ人たちが、どんどん先へ進んでしまうのが、AIの特徴といえます。AIには学習させるデータが必要ですが、人事部門には他の部門と比べて相当なデータが保存・蓄積されていると思います。採用時のエントリーシート、入社後のキャリア面談の文書、個人の目標設定の書類、人事査定時の上長のコメントなどさまざまな情報がありますが、そのまま活用できない非構造化データであるために、ほとんどがほこりをかぶった状態です。

 それらの情報をAIで自然言語処理して有益な「データ」として活かすことが、いまでは可能となっています。大量のデータと人事部門が長年培ってきた経験値を組み合わせることで、従業員体験の最大化や個人最適化などを具現化できるのです。そのデータと経験値をラインマネージャーと共有すれば、事実に基づく示唆を部下に提供し、常に寄り添うこともできるはずです。

 かつてはできなかったことが、いまは可能になっているのですから、AIを活用しない手はありません。