新しい仕事に尻込みする要因の一つに、インポスター(詐欺師)症候群がある。「自分はその仕事にふさわしくない、力不足だ」と感じることをいう。この症状に陥った人は、周囲に自分の能力不足を気づかれたら、その仕事を離れざるを得ないと思っている。

 しかし、インポスター症候群はたいてい茶番だ。人は相手の考えていることがわからないので、相手には能力も自信もあると勝手に思い込んでしまう。そのため、自分以外の人も皆、実務の中で必要に迫られて、その都度、新しいスキルを身につけてきたことに気づけず、それゆえに自分がスキル不足だと感じる仕事を敬遠してしまうのだ。

 そうではなく、新しい仕事に「挑戦」する、これは「チャレンジ」だ、と考えたほうが得である。キャロル・ドゥエックらは研究を通じて、「グロース・マインドセット(成長マインドセット)」という考え方を打ち出した。難しいタスクにぶつかったときは、才能(=習得できない)の欠如ではなく、スキル(=習得できる)の欠如と捉えることが、学び続ける姿勢を維持する最良の方法だと述べている。組織心理学の専門家は、このグロース・マインドセットが、仕事とのエンゲージメントにもつながるという説を唱えている。

 実際のところ求人は、応募する人が必ず満たしていなければならない要件の厳格なリストではなく、業務に関わる資質のガイドライン程度に見ておくのがよさそうだ。もちろん、その仕事に必要なスキルを少なくとも一部は持っていることが重要だが、自分がすでに条件を超えているような仕事だけに選択肢を狭めることは、どんな人もしないほうがよいだろう。


HBR.org原文:You Don’t Need to Meet Every Qualification to Apply for a Job, May 20, 2019.

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アート・マークマン(Art Markman)
テキサス大学オースティン校のアナベル・イリオン・ウォーシャム生誕100周年記念講座教授。心理学とマーケティング論を担当。また、同校ヒューマン・ディメンションズ・オブ・オーガニゼーションズ教育プログラムの創設ディレクターでもある。論理的思考、意思決定、モチベーションなどをテーマに、150以上の学術論文を執筆。最新刊は、Bring Your Brain to Work (未訳)。