IoTセンサーで人々の「選好」データを収集しモデル化に活用

――AI、ビッグデータ、IoT、ロボティクスといったデジタル技術は、サービス設計の難しさを克服するのに役立ちますか。どんな使い方が考えられますか。

 サービス設計の難しさを、もう1つ別の観点から言うと、検証する方法が十分ではないことが挙げられます。つまり、製品の場合は、とりあえずプロトタイプをつくってみれば、構造的にどれだけの強度があるのかなど、科学的に検証することが可能ですが、一方のサービスは、企画したサービスを科学的・工学的に検証するプロセスにおいては、本番と同レベルになってしまうので、事前の検証がやりにくい。

 我々の研究室では、実験経済学という分野で用いられている手法を応用し、実験室で仮想的なサービスを構築し、人間を被験者として、そこでの振る舞いを調べるといった方法を採用しています。つまり、設計されたサービスを実験室で検証しようと試みています。いずれにせよ、数理的モデルが必要で、そのモデルが機能するかどうかを実験室で検証するわけですが、一連のプロセスにおいて、AIやIoTといったテクノロジーが有効に効いてくるだろうと期待しています。イメージとしては、たとえば人間の行動をバイオセンサーなどで日常的に計測し、行動ログを取ります。これをビッグデータとして解析し、モデル化することによって、いままで現場で実際につくらなければいけなかったサービスを、机上で構造体として設計することができると考えています。

 このときに重要なのは人々の「選好」のデータです。経済学の基礎は、この選好という考え方に基づいて理論体系が構築されています。数学的には二項関係の1つとして定義されますが、端的に言えば、数字としての大きさを持たない、単なる順序ということです。本来、取り扱いが難しい好き嫌いという主観的な問題を、選好順序という形でうまく数理モデルとして記述することが可能です。IoTセンサーの進展により、今後は、日々の購買データやレストランの選択、商品の選択など、個人一人ひとりの行動データを大量に蓄積していくことで、より精度の高い選好の数理モデルをつくり、サービス設計に活かしていくことも可能になると見ています。

――製造業に比べて、生産性が低いと言われる日本のサービス業ですが、効率化を図るには何が必要ですか。

 効率化を図り、生産性を上げるところに、最終的な答えがあるとは個人的には思っていません。効率性を「価値÷コスト」としたときに、コストを下げていくと分母が小さくなるので、全体としての価値は上がります。それはもちろん有効ですが、分子側の付加価値を上げる、言い換えると、そもそものパイを広げるという発想が必要だと思います。

 少子高齢化で労働人口も消費人口も減っているなかで、パイを広げるという発想は、結局、総量として広げるのではなく、個々のサービスの付加価値、そこから生み出される便益を引き上げる戦略であり、そのほうがいいと私は考えています。「おもてなし」がそれを端的に表している言葉だと思いますが、高品質のサービスを安価で提供するのではなく、それに見合った対価を受け取るような仕組みをつくり、それが賃金上昇などを通じて従業員のWell-beingを拡大し、さらに経済を循環させる。そのような構造を生み出すことが日本のサービス業が目指すべき道ではないでしょうか。

 昨年1年間、イギリスに滞在していましたが、向こうではサーキュラー・エコノミーの思想が根強く浸透し、キーワードとして比較的よく出てきたのがプロダクト・サービス・システムです。製品・部品・資源を最大限に活用することはもちろんですが、それらを再生・再利用する過程で、いかに新しい価値を創出できるかというのがポイントで、そのコアとなる考え方の1つがプロダクト・サービス・システムです。製造業のサービス化やシェアリングエコノミー、サブスクリプションサービスと言ったときに、新しい価値を生み出し、サービスとして提供するという議論が日本では多くの場合で抜け落ちている気がするので、そうした考え方も必要だと思いました。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)