メカニズムデザインを応用し全体として価値を生み出すルールをつくる

――サービス設計の研究では、どのような取り組みを行っているのですか。

 科学的・工学的アプローチに基づいてサービスを考えようとしたときには、行動主体の振る舞いを含む、社会における事象を表現する数理モデルが必要です。具体的には、経済学の発展分野の1つであるメカニズムデザインを応用してサービスの設計問題を研究しています。メカニズムデザインとは、ゲーム理論のフレームワークを応用して、個々の合理性を前提とした振る舞いが、システム全体として望ましい状態と一致するよう相互作用のルールを設計するものです。

 サービスが物理的実体を伴う製品と大きく異なるのは、プロセスを設計しないといけないことです。しかし、サービスのプロセスとはサービス提供そのものであり、場合によっては、それは人間(サービス提供者と利用者)の行為に相当します。人間の行為自体を直接制御するのは、さすがに非現実的です。そうではなく、プロセスを生み出すルールをつくり出すことだととらえていて、サービス提供におけるルールをつくり出すこと自体は、「メカニズムデザイン」を適用すれば可能だと考えています。理論的な側面が強い研究ですが、モデルがあるからこそ、サービスが設計できる。そのモデルをどういう構造にすればいいサービスになるのかという発想で設計問題に取り組んでいます。

――製造業のサービス化の観点から取り組んだ事例はありますか。

 製造業が単にものを売るだけという通常の販売型と一般的なリース、そしてシェアリングという3つの異なるビジネスの仕組みをモデル化して比較してみました。その結果、明らかになったのは、コスト構造によって取るべきビジネスの形態は異なるということでした。もの=プロダクトの生産コストが高い場合は、シェアリングのほうがうまく機能する一方で、低コストで生産できる場合は、むしろシェアリングでは非効率で、売り切ったほうがいい。製造業者の収益性の視点からは、そうした示唆が得られました。

 これに関連したモデルを使って、消費者間でシェアリングが始まった場合の製造業の戦略の意思決定について分析した研究があります。一般の消費者が本当に使わないクルマをシェアリングに回したら、製造業はどのような行動を取るかというものです。直感的には生産量を減らさざるを得ないということで、本業が立ち行かなくなる。消費者間でサービスが生まれたら、生産者は直接的関与が難しい状況に陥ってしまうので、かなり苦しくなるんじゃないかという前提で研究をスタートしました。

 たしかにそうした傾向は認められましたが、シェアリングサービスをきちんと機能させようとすると、耐久性の高い、高品質のプロダクトを使わないといけないということで、生産者はそちら側の戦略にシフトするという結論が得られました。また、別の条件では、生産者はプロダクトの耐久性を下げることで、シェアリングサービスを妨げる場合もあることがわかりました。特にこの場合、低い耐久性の製品が社会にあふれ、環境的には悪影響を及ぼすため、リサイクルなどによって適切に循環させる仕組みが必要不可欠です。