他者が共感できるような抽象度の高い夢を語れるか

 そして、オーセンティック・リーダーシップを体現している経営者の一人が、新井和宏氏である。新井氏は鎌倉投信の創業者の一人であり、2018年に株式会社eumo(ユーモ)設立、共感資本主義社会の実現を目指している。その想いを次のように語った。

新井和宏(あらい・かずひろ)
株式会社eumo:代表取締役社長。
東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。2018年9月株式会社eumoを設立。著書に『持続可能な資本主義』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)など。

「長らくお金にまつわる仕事をしてきたが、次第に、人間はなぜお金に支配されなければいけないのかと疑問を持つようになった。それなら自分たちでお金をつくり、使えば使うほど幸せになるお金を定義したいと思い、共感資本社会の実現を目指してeumoをつくった」

「これまでは金融という枠内で物事を考えてきたが、今回は金融の免許が不要なジャンルで、どこまで楽しめるかを考えている。だからいまはワクワクが止まらず、楽しくてしようがない。人は最終的に幸せになりたいから生きている。幸せになれない経営やリーダーシップはどこか間違っている」

 はじめはケンもほろろだった周囲が、次第に巻き込まれていく。あるいは思わぬ方向から協力者が現れる――。小杉氏も、人を巻き込むポイントとして、リーダーが掲げる夢の「抽象度の高さが重要」だと指摘する。

「仕事で業績を上げることは個人の問題であって抽象度が低く、他人からの共感を得にくい。その点、新井氏の構想のような、新しい貨幣の価値を定義して新しい経済圏をつくろうというのは、多くの人が共感する非常に抽象度が高い試みだ」

「起業家も第一義は志であるべきで、戦略やビジョンは抽象度が高くない。企業が志や理念、使命を語り出すと共感する人が増えて夢が実現に向かう」と語った。

 新井氏はまた社会起業家の先達として、1980年生まれの若手起業家集団、福岡エイティーズを支援しており、そのなかにオーセンティック・リーダーシップの好例があると語る。

「ソーシャルビジネスは儲からないと言われて久しいが、エイティーズの一人、ボーダレス・ジャパンの田口一成社長は、行政からの補助金に頼らず、ビジネスとして成り立つようにした。創業12年、国内外の社会的な課題を解決したいという夢をもつ若き起業家たちに手を挙げさせて、後方支援を行い、いまや売上げは40億を上回っている」

 いわば社会起業家のプラットフォームを担うわけだが、支援するほとんどの事業が前例のない"新規事業"であり、軌道に乗せるのは並大抵のことではない。それゆえに田口社長は厳しい指摘も辞さないが、「失敗はアプローチの問題であり、課題解決すればよいとして、相手の夢を必ず実現させる。だからこそ、人がついてくる。それぞれの内発的動機を徹底させる手腕がすばらしい」

 田口社長自身がオーセンティック・リーダーであり、また組織全体がオーセンティック・リーダーシップを実践する人たちの集まりになっているとのことだ。