ピューリッツアー賞受賞作家のリーダー論

 巻頭論文は、リンカーン大統領の偉業を通して、ストーリーで読ませるリーダーシップ論。秀逸です。

 話は、リンカーン大統領が、奴隷解放宣言を発する2カ月前、草稿を閣議に諮るシーンから始まります。賛否、激しく、意見は割れます。

 陸軍長官と司法長官は、違う立場から、強い賛意を示します。当時、北軍は苦境にあり、奴隷解放宣言が強力な追い風になると陸軍長官は踏んだからです。一方、保守派の司法長官は、奴隷解放後は全員を国外退去にすべきだと考えていました。

 内務長官は、もし宣言が発令されたら辞任してリンカーン政権を攻撃するつもりでした。郵政長官は、宣言によって、南軍と境界を接する州の合衆国支持者(北軍)が分離独立派に転向してしまうと危惧しました。

 財務長官は、奴隷解放は大虐殺や暴動を誘発することを懸念。国務長官は、人種間闘争が起きて綿花生産が滞れば、綿花を材料に繊維を生産する英国やフランスが南軍を擁護することになりかねないことを憂慮しました。

 支持団体が異なる閣僚たちの意見はバラバラ。皆、才気溢れていましたが、野心的で、気位が高く、口論好きで、嫉妬心が強く、扱いが難しい閣僚ばかりでした。

 この状態から、どのようにしてリンカーン大統領は、奴隷解放宣言の発令に至り、北軍の勝利につなげたのか。ドリス・カーンズ・グッドウィン氏、ピューリッツァー賞受賞作家(受賞作はNo Ordinary Time(邦訳『フランクリン・ローズヴェルト』中央公論新社)なればこその筆力による、ワクワクする話の展開と、奥の深いリーダー論となっています。意見対立が激しい、今日という時代を意識した論文であると感じます。

 なお、この論文は、他の論文と異なり、著者の意向により、翻訳掲載の条件が厳しく、本誌でしか読めません(ウェブサイトでの論文単体での販売はしておりません)。それ相応に読む価値の高い論文です(編集長・大坪亮)。