組織行動学の視点から、それがどのように生じるのかを再考してみよう。私たち人間は、リスクに対して敏感に対応する。このことは私たちに有利に働く「べき」であり、航空機の安全システムを設計するような場合には、特にそうである。

 問題は、私たちが「人間関係」のリスクに最も敏感であることだ(他者に拒否されたくない、という心理)。そして、人は無意識のうちに、心地よさや安全の維持、さらにはその瞬間における自分の居場所を守ることを「過大評価」する。

 一方、漠然としていて、おそらく起こらないであろう、はるか未来の可能性を「過小評価」してしまう。心理学者は、これを「時間割引」という言葉で表わす。

 これは、人間の単純な本質だ。私たちは事を荒立てたくないし、凶事を告げる予言者にもなりたくない。馬鹿だと思われたくないので、「これがなぜ機能するのか私にはわからないのですが」という声を上げない。品質の問題を指摘して叱られるのは嫌なのだ。

 加えて、ほとんどの職場には、次の二者を潰そうというインセンティブが組み込まれている。(1)声を上げる従業員、(2)それらに実際に耳を傾けるマネジャー、である。私の同僚でスタンフォード大学教授のボブ・サットンの著述によれば、上司は自らがつくり上げた「幻想に酔って生きている」ことが多いという。

「悪いニュースを伝えた人は、それがけっして当人の責任によらない場合でも、非難され、ネガティブな感情を向けられる傾向にある。その帰結が“沈黙効果”だ。優れた生存本能を持った部下は、悪いニュースを和らげて聞こえをよくしたり、そもそもニュースが上司に伝わらないようにしたりする。このため、厳しいヒエラルキーの中で上層部に届くのは、喜ばしい話ばかりになっていく」

 ただし、ある場合を除く。

 文化が――ここでの文化とは特に、全階層のマネジャーの振る舞いが――熱心かつ継続的に、心理的安全をサポートするものであれば、この事態は避けられるのだ。